グレースの足は孤児院から遠のき、塞ぎ込む日々
グレースも土曜日ごとにノーマ・ジーンに会いに来た。グレースが会いに来るとランチに出かけ、映画を見た。そして、ノーマ・ジーンに言った。
「きちんと整理がついたら、家に戻って一緒に暮らせるからね」
ノーマ・ジーンが覚えている映画はクラーク・ゲーブルの『南海征服』だった。彼女は、実の母親グラディスと暮らしていたとき、壁に飾ってあった写真がクラーク・ゲーブルとそっくりだったことに気がついた。ノーマ・ジーンはそれから、自分の父親がクラーク・ゲーブルだと思い込んだ。
しかし、グレースも時間がたつにつれ、母親のグラディスのときと同じように、来る頻度が減っていった。5週間も来ないときもあった。グレースが来なくなるとノーマ・ジーンはふさぎ込み、せき込むようになり、話し言葉もどもるようになった。
「わたしには素晴らしい両親がいる」
そんなとき、ノーマ・ジーンは慰めを求めて空想にふけった。
「わたしには素晴らしい両親がいて、長い旅からもうすぐ帰ってきて、迎えに来てくれる」
空想の日々からの脱却
ノーマ・ジーンは自分あての絵葉書を書いて、差出人を“パパとママより”として投函した。孤児院の子たちにも、パパやママのことを自慢した。もちろん、誰も信じてくれなかったが、それでもよかった。
のちにマリリン・モンローは話している。
「わたしは、ただそれが本当だと信じたかったのよ。心から信じれば本当になりそうな気がしたの」
信じるしか、心のよりどころはなかった。
ノーマ・ジーンは、よく孤児院の屋根に乗って映画製作会社RKOスタジオのタワーを見つめた。
「あそこでお母さんが働いていたんだって。ものすごく寂しくてよく泣いたものよ。でもそれがわたしの夢と希望になったの。映画が作られる場所で私も働こうって。グレースにそのことを話すと飛び上がってよろこんだわ」
