「演劇を見たのは初めてで、台詞の読み方もあまりよくわかっていなかった」
のちにマリリンは語っている。
「演劇を見たのは初めてで、台詞の読み方もあまりよくわかっていなかったわ。でも、劇団員の人たちが読むといかにも現実だという感じになるの。それがおもしろくて、私もその仲間に入りたいと思ったわ」
特に、社会的に貧しい弱者に対する視点には深い共感を覚えた。マリリンが通った演劇クラスでは社会に対する不満と公民権を剝奪された貧困者の問題が何度も討論された。
貧しい人々の窮状を訴えた芝居や資本主義を痛烈に批判する演劇には、自らの過去を思い出してのめり込んだ。
マリリンがアクターズ研究所に通ったのは10カ月ほどでしかなかったが、ここでの体験が彼女の演劇の基礎になっている。本格的女優を目指し続けたのも、貧しい人たちに対する深い同情も、ここで培われた。
「お金がないときは、男に体を売っている」困窮するマリリンに手を差し伸べた人物
20世紀フォックスの契約が終わったマリリンを助けたのは、キャロル夫妻だった。夫のジョン・キャロルは42歳の俳優で、着実な演技と賢明な投資で財産を築いていた。妻のルシール・ライマンは映画会社メトロ・ゴールウィン・メイヤー(MGM)のタレント発掘部長をしていた。
ルシールは仕事がら、将来のスターを目指す若手の俳優に物心両面の援助をしていた。ルシールはマリリンを見て、こう思った。
「ああかわいそうな子、迷子の子猫みたい」
マリリンはジョンとルシールに初めて夕食に呼ばれたとき、自らの窮状を素直に語った。
有り金はすべてアクターズ研究所の費用と家と車の維持費で消えてしまうことを。そしてお金がないときはハリウッド通り辺りで、男に体を売っていることを。マリリンはルシールに淡々と話した。このことが余計にルシールの胸を痛めさせた。
もちろん、体を売っていたことに、マリリンの心も傷ついていたが、自分に無理やり納得させていた。
