落ち込んだ円の“信認”
実際、日本から外国に渡航する人(アウトバウンド)の数は、コロナ禍が沈静化した現在になっても年間1473万人(2025年)とコロナ禍前(2019年)の2008万人の7割程度の水準にしか回復していない。パスポート保有率も18%に落ち込み、日本人の渡航熱は冷え込んだままだ。
こうした状況の背景にあるのが円安だ。外国為替市場における円とアメリカおよびアジア諸国通貨のコロナ禍直前の2020年初値と2025年終値を比較し円が各国通貨に比べてどれだけ下落しているのかを見てみよう。
・シンガポールドル:51%
・マレーシアリンギット:45%
・USドル:44%
・中国元:43%
・タイバーツ:36%
・ベトナムドン:27%
・フィリピンペソ:24%
・インドネシアルピア:20%
これまでは日本人は東南アジア諸国に旅行に出かけるとその物価の安さに驚き、庶民でもかなり贅沢な旅行を味わうことができた。だが現在の状況では日本はアメリカやヨーロッパ、中国はもとより、東南アジア諸国の通貨に対してもこの6年間で20%以上も円の信認が落ちていることがわかる。
円安が外国人による日本の不動産の爆買いを誘発
アメリカ人が2020年初頭に日本にやってきて1億円のマンション住戸をみたとき、92万ドルであったものが現在(2025年末)、同じ1億円の物件をみるとなんと64万ドルの大バーゲンセールに映っている。同様に他国の富裕層も日本の不動産の格安ぶりに驚いているのに違いはない。
こうした円安状況が中国や台湾などの外国人による日本の不動産の爆買いを誘発していることはすでに数多く報道されているところだが、さらには東京都心部を中心に日本の大企業が所有しているオフィスビルや商業施設、ホテル、賃貸マンションなどが次々と外資系投資ファンドの傘下に組み入れられている。東京都心部には日本の大企業が所有している不動産がたくさんあるが、欧米系のアクティビスト(物言う株主)たちが、本業でもない不動産業を分離(スピンオフ)して、売却益を本業投資や配当に充てるよう主張しているのである。昨年のサッポロホールディングスの不動産子会社の株式売却、現在のフジ・メディア・ホールディングスの不動産事業の売却入札などがその大規模事例だ。
これらの入札において、日本の大手デベロッパーの名前がほとんど見受けられないのも、為替と金利の影響が大きい。欧米の投資ファンドから見れば日本のオフィスビルや商業施設は格安だ。いっぽうデベロッパーは安い円で彼らと勝負しなければならない。足元では金利が上昇を始めており、すでに有利子負債で3兆円から4兆円を抱える大手デベロッパーに、さらに数千億円から1兆円のファイナンスをして参戦する余地は少ない。