――ご苦労されてきたんですね。

麻木 旅行先のホテルでも怖い出来事がありました。部屋へ戻ろうとしていた時に、エレベーターで一緒になった見知らぬ男性が「おやすみなさい」と声を掛けてくださって、私が先に降りたんです。

 ところが、部屋のドアを開けようとした瞬間、さっき挨拶をしたその男性が後ろからついてきていて、無理矢理部屋へ入ろうとしてきました。必死にドアを閉めて何とか防げましたが、本当に危なかったです。

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 ホテルの部屋にもその男性から電話がかかってきて、警察へ相談しましたが、捕まりませんでした。それ以来、エレベーターで男性と二人きりになることは避けるようになりました。昔に比べると落ち着きましたが、今でも周りにはすごく気を配っています。

©細田忠/文藝春秋

 そうした経験を重ねるうちに、自分なりに身を守ることを常に考えるようになりました。知らない方に声を掛けられても、聞こえないふりをして目を合わせず、そのまま通り過ぎることが当たり前になりました。「自分の身は、自分で守るしかない」。そんな思いが、少しずつ身についていったんです。

「自分の身は、自分で守るしかない」と気づかされた出来事

――その思いが、ご自身の中で決定的になった出来事はあったのでしょうか。

麻木 18歳の頃、お世話になっていた方が車で家まで送ってくださることになって、女友達と二人で乗せていただいたんです。でも、途中で二人とも寝てしまって……。ふと目が覚めて運転席を見ると、まったく知らない男性が運転していたんです。

――まさか、運転席に知らない男性がいるなんて……。

麻木 隣では友達がパニックになっていて、大声を出して助けを求めたので、その男からスマートフォンを取り上げられ、彼女だけ無理やり車の外に引きずり下ろされてしまったんです。それを見て、パニックになったら私も何かされてしまうと思い、運転席の男性に「まず、あなたは誰なんですか」と、できるだけ冷静に聞きました。

©細田忠/文藝春秋

 その後も意思疎通ができず、赤信号を無視して猛スピードで車を走らせていて、普通の精神状態ではないように見えました。できるだけ刺激しないように、「警察には言わないから、お願いだから解放してください」と説得しました。

 最終的には車から引きずり下ろされた友人が警察を呼んでくれたおかげでパトカーが来て助かりましたが、その犯人も結局捕まっていません。

――それは怖い思いをしましたよね。その事件はなぜ起きてしまったのでしょうか。

麻木 あとから聞いた話では、車を運転していた方が、寝ていた私たちを起こさないようにと、借りていたDVDを返却するために少しだけ車を離れていたそうなんです。そのわずかな間に車ごと盗まれて、私たちはそのまま連れ去られてしまいました。