「私はここにいる子たちには売らないよ」
マキがトー横に出入りし始めた頃、そこにいた若者たちの間ではODが多発していた。服用すると舌が青くなるため、それをInstagramで誇示することが流行った睡眠導入剤のサイレース。病院で処方してもらう必要がなくドラッグストアで入手出来るため、万引きが多発した咳止め錠のメジコン。
「トー横キッズの周りにいる大人たちの中には生活保護を受けながら心療内科に通っているひともいて、そのひとがサイレースとかを引いてきてキッズたちに売ったりしているんですよ」
マキからそのように紹介してもらったのが、高齢の女性だ。
「私はここにいる子たちには売らないよ」
しかし女性は事前の情報をきっぱりと否定した。
「私が売るのはあっち(トー横へと続く繁華街)にいるパリピで、こっち(トー横)で欲しいっていうやつにはただで渡してる。私はもらっても使わないし、余ってるわけだからね」
女性がトー横にやってきたのは、3年ほど前のことだという。
「その頃はまだ子供たちばかりで、ちらほらと大人はいるけど、お母さん役がいないと思ったんだ。それだったら、私がいる意味もあるのかなって」
ここまでは緊張感はありつつも、話を聞かせてもらえていたと思う。しかし「あなたにとって、トー横はどんな場所なんでしょうか」――話を引き延ばそうと、そんな陳腐な質問をしてしまったことで、突然、彼女は激昂した。
リーダー格の“おじさん”と呼ばれるプッシャー
そして、後日、マキからはまた別の、トー横のプッシャーを紹介してもらった。
マキと新宿西口から歩いていくと、ガード下に段ボールでつくった家があって、その中で数人の男性が酒盛りをしていた。話しかけると、「ちょうど酒も切れたし、トー横のコンビニまで買い足しに行こう」と言う。そのリーダー格が、“おじさん”と呼ばれるプッシャーだった。
おじさんはストロングゼロを飲みながら、トー横でのドラッグの主流はODからマリファナへと変わりつつあると言った。確かに先日も彼は広場で若者たちとジョイントを回していた。
「オレはいま40代。出身は×県で、もともと地元の悪い先輩の影響で小5から草(大麻)をやって、15歳で覚醒剤デビュー。その後は色々。30代で渋谷のスカウト時代に気に入られた先輩の勧めもあって、歌舞伎町に出入るするようになった。当時は合法ハーブが流行っていたな」