オレの望みは大麻で利益を得ることじゃない
おじさんは言う。
「今は歌舞伎町暮らし。生活保護は受けていなくて、配達業や土建仕事、パチンコなんかが収入源。少し前まで管理が手薄い雑居ビルの階段に住ませてもらっていた。そこに草を保管して、キッズたちが『今日、あるー?』みたいなノリで通ってきて。草は、所持は捕まるけど、吸うだけなら問題ない(取材時。2024年12月に大麻使用罪が施行)から、その場で吸わせるのが基本。1吸いワンコイン。500円。
ただそのビルの階段に、寒さに苦しむホームレスやキッズ数人を匿ったせいで、周りからクレームが入って、先週、強制退去になっちゃった。最近はガード下暮らしで、朝から晩まで酒に溺れてるよ。
キッズに吸わせ始めたのは、数年前にムショを出てから。これまで1年弱でキッズの顧客は40人以上。広場(トー横)の大麻経験者の3分の2はオレからだと思う。その内、オレ以外のルートから売人と仲良くなって、個人的に仕入れようとする子もいたよ。でも、どっぷり歌舞伎町に浸かっている子でもないかぎり、最初は粗悪品を掴まされる。だから大抵、オレのとこに戻ってくる。安いし、モノがいいからね。
1吸い500円じゃ損してるかもしれないけど、あまり気にしてないよ。まぁ、やり方次第ではキッズやホームレス相手に儲けられたのかも。だけどオレの望みはそこで利益を得ることじゃない。今はメジコンでODをやってるやつばっかだけど、あれは最終的に肝臓がボロボロになるし、精神的にもバッドになる。
でも草は、気分がふわーっとなるだけで、海外じゃ普通に認められているし、体への害はメジコンなんかよりよっぽどない。家で嫌なことがあって広場に来ても、またそこで体売ったりトラブルに巻き込まれたりで、薬に逃げたくなる気持ちは良く分かる。だったらメジコンなんかよりも草でキマったほうがよっぽどいいだろって。
オレは薬物で捕まるようなヘマはしないよ。オレが捕まったら広場の治安が乱れると警察も分かっているから、今は様子を見つつ泳がされているようにも思う。実際、キッズからも慕われていて、揉め事があったら皆相談にくるし、事情にも詳しい。犯罪や薬物を強制なんかはしないよ。でもオレ自身は家もないし、酒でも飲まないとやっていられない。今後の人生、どうしたらいんだよってのは思う」
「ここではない、どこかへ」の入り口として
「いま初めて、大麻を吸いました!」
トー横の喧騒をストロングゼロを飲みながら眺めていると、マキが興奮しながら報告してきた。ここではない、どこかへ。その入り口として、トー横もドラッグも機能しているのだろう。それならば、出来るだけいい旅になるように。世間では「ダメな大人」と思われている人間でも、せめてそんな水先案内人としての使命を果たしたいのかもしれない。
取材の数ヶ月後、おじさんは大麻所持の疑いで逮捕された。
