米国が7月24日以降、イランへの攻撃を停止していることについて、米国のウォルツ国連大使は、26日のCBSテレビの番組で、「外交に少しの時間を与えている。トランプ大統領は外交にチャンスを与えており、今後、数日間の展開を見守ることになる」と説明しました。

 イラン側が「米国に交渉再開を要請したことはなく、いかなる交渉も進行していない」と反論するなか、トランプ大統領も、27日、記者団に「使い切れないほどの弾薬を大量に保有している」「彼ら(イラン)の求めで交渉をしている」と述べましたが、そんな余裕はトランプ大統領に残されていません――こう断言するのは、『なぜ米国はイランに負けたのか』(文春新書、7月刊)の著者で元イラン大使の齊藤貢氏です。齊藤氏によれば、米国が攻撃を停止した最大の理由は「ミサイル在庫の枯渇」にあります。

 齊藤氏は、「ミサイル不足が米国の最大の弱点になる」と戦争開始当初からいち早く見抜いていました。

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(※本稿は、前掲書から一部抜粋したものです)

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 この戦争は、いずれかの陣営が「弾切れ」を起こしたところで終わる、少なくとも「落とし所」を探る動きが始まる――開戦当初から、私はそう考えていました。

 米国とイスラエルは、居場所を特定できた最高指導者ハメネイ師の殺害を急ぐあまり、十分な準備なしに、とくに迎撃ミサイルの備蓄不足を放置したまま戦争を始めてしまったのです。

 その点、イランの方が一枚上でした。重厚長大な兵器で正面から対抗する「対称戦略」ではなく、長年準備してきた「非対称戦略」を発動したからです。(略)

 イラン側は、米国とイスラエルの武器は最新鋭でも、在庫不足が弱点となると見抜いていました。実際、戦争開始から2週間程度で、イラン側の読み通りに、米国とイスラエルの迎撃ミサイルが枯渇し始めました。

 2026年4月21日、米戦略国際問題研究所(CSIS)が、米軍の弾薬状況に関して、「7種類の主要なミサイルのうち、4種類は在庫の半数以上を消耗し、別の3種類も在庫の3割前後を消耗した」とする分析を公表しています。

 CSISによると、パトリオット(地対空誘導弾)は、2330発の在庫のうち、1060~1430発を消耗し、トマホーク(巡航ミサイル)は、約3000発の在庫のうち、1000発以上を消耗し、JASSM(長距離巡航ミサイル)は、在庫の約4分の1に相当する1100発以上を消耗し、SM3(迎撃ミサイル)は、最大で備蓄の6割にあたる250発を消耗し、THAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)は、最大8割を消耗し、作戦前の水準まで在庫を回復するのに、トマホークは3年11カ月、SM3は5年4カ月もかかると見られています。

「米国とイスラエルの高価な兵器」と「イランの安価な兵器」という「価格の非対称性」も、重要なポイントです。

 イランの1発数千万円の弾道ミサイルを大気圏内外で迎撃する米軍のTHAADは、1発約24億円で、しかも通常は1回の迎撃に2発撃ちます。これでは迎撃に成功しても、費用面でとても割に合いません。(略)

 一方、イラン製のドローン「シャヘド」は、1機、数百万円です。この「価格の非対称性」によって、イラン側としては、「迎撃」させるだけで、高価なミサイルのストックを消耗させて、相手を迎撃ミサイルの在庫不足に追い詰めたのです。しかも、米国とイスラエルが用いる高価な迎撃ミサイルは、在庫の補充に時間がかかりますが、イランの安価な弾道ミサイルとドローンは、短期間での増産が可能と思われます。

 つまり、米国とイスラエルの「ハイテク兵器」は「短期決戦」向きなのに対し、イランの「ローテク兵器」は「持久戦」向きで、「時間」は「ハイテク兵器」より「ローテク兵器」の味方をするのです。イランとしては、「持久戦」に持ち込めば、軍事的にも優位に立てます。

 ちなみに「ドローンが現代の戦争を根本から変えた」と言われますが、イランこそ、ドローン戦の“パイオニア的存在”で、長年にわたって、ドローンの大量生産体制を築き上げてきました。(略)

 こうして米軍の絶対的優位は徐々に揺らぎ始め、「短期決戦」で終わらせるはずの戦争が、ずるずると泥沼の「持久戦・消耗戦」へと変質していったのです。

齊藤貢(さいとう・みつぐ)
1957年生。元イラン大使、関西学院大学客員教授。1980年、一橋大学社会学部卒業、外務省入省。外交官として、エジプト、サウジアラビア、イスラエル、国連代表部(ニューヨーク)、イラク、UAE、ベルギー、タイ(UNESCAP日本政府常駐代表)、オマーン(大使)などに勤務。2020年、外務省退官。サウジアラビア、イスラエル、イランの3国で勤務した唯一の日本の外交官。趣味は手品。著書に『イランは脅威か――ホルムズ海峡の大国と日本外交』(岩波書店)。