母娘2人の命を奪った池袋暴走事故。逮捕されず、「車に異常があった」と主張する87歳の元高級官僚には「上級国民」と猛烈な批判が起きた。事故から5年、遺族は受刑者と対面を果たし……。

 母娘2人が死亡し、10人が重軽傷を負ったのに、運転手が逮捕されないのは「上級国民」だからではないか。

 2019年4月19日に発生した東京・池袋の暴走事故では、加害者の飯塚幸三(当時87歳)に対して、バッシングの嵐が吹き荒れた。

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加害者である飯塚幸三元受刑者は2024年10月に老衰のために刑務所内で死亡した ©時事通信社

 当時、TBSテレビの社会部で警視庁を担当していた私は、以来7年にわたり、100人ほどの事故の関係者を取材した。

 その中でも私がもっとも数多く接触を重ねた1人が松永拓也で、もう1人は飯塚幸三の長男だ。

「こんな悲劇を繰り返してはならない」

 松永は被害者遺族、飯塚の長男は加害者家族と立場は真逆だが、実はこの2人は「こんな悲劇を絶対に繰り返してはならない」という共通した思いを持ち、何度も対話を重ねてきた。

事故で妻子を失った松永拓也さん ©時事通信社

 事故の遺族と加害者の間には、どんなドラマがあったのか――。

 事故当日、飯塚幸三は朝8時半頃に起きた。飯塚と妻はともに1931年6月生まれで、26歳のときに結婚。飯塚は約3年前から足のふらつきが始まり、好きなゴルフをやめ、4カ月前から歩くときに2本の杖を同時に使っていた。

 夫婦はこの日の午後0時30分に行きつけのレストランの予約をしていた。妻が「電車かバスで行きませんか」と提案したが、夫は「歩くのが大変だから、車で行こう」と譲らなかった。

家族3人の“日課”

 一方、松永家は3人揃って午前6時半に起床。拓也と妻の真菜さん(当時31歳)と長女の莉子ちゃん(当時3歳)には日課があった。その1つは、朝夕の食事のたびに、莉子ちゃんがせがみ、3人で笑って10秒間ほど手を繋ぐことだ。

 松永の出勤前に3人で円陣を組むように抱き合う。そして、莉子ちゃんがお尻をふってバイバイする姿を見て、夫婦は大笑いする。