捜査への圧力
警視庁は自分たちで決めた方針を貫こうとしていたが、外部からの干渉はあったのだろうか。
捜査に関する指摘を行っていたのは、東京都議会議員だった。警視庁は行政上、都の行政委員会である「東京都公安委員会」の管理の下に置かれ、予算の大半は東京都から支出される。
都議会の「警察・消防委員会」が「東京都公安委員会(警視庁)」を所管し、都議は地方自治法などに基づき、警視庁に対して委員会での答弁を求めることができる。
こうした仕組みを背景に、自民党所属の都議たちが警視庁の幹部らに対し、非公開の場で、池袋暴走事故に関する質問を行った。日付は事故から約一か月後の五月二九日、場所は都議会の自民党の部屋だ。二〇一九年六月の第二回定例会の「事前説明」という位置づけだった。
ある都議(当時)は警視庁側に対し、「死亡者がいることから、常識的に逮捕するべきだったのでは? 高齢を理由に逮捕しないのか?」という趣旨の発言を何度も行った。しかし、警視庁側は「通常、逮捕は裁判所に却下される」などと説明し、刑訴法に則って逮捕できないという回答を繰り返した。この都議側に事実関係や経緯を確かめる質問状を送ったところ回答はなかった。
当時、「飯塚は上級国民だから逮捕されないのだ」という主張がネットを中心に広がっていたが、その実態は真逆であり、政治家も世論と考えを同じくし、警視庁にいち交通事故の捜査方針に口を出していたのだ。
警視庁はあらゆる角度から検討を行い、懊悩しながら「不逮捕」という結論を下した。
◆◆◆
「まるで自分が事故を起こした当事者ではないか。これが未来永劫続くのか」
事故直後、「上級国民だから逮捕されない」と世間の怒りが爆発。しかし激しいバッシングの矢面に立たされていたのは、事故を起こした飯塚本人ではなく「彼の長男」だった。
