江戸の離婚率は令和の倍? 自由と責任の連環

――今回の作品では、寺役宿・桂屋の主人やその息子の幸吉、宿で預かっている女子のおみわちゃんなど、架空の登場人物が生き生きと描かれています。これまで川越さんは主に作中に実在の人物を登場させてきましたが、架空の人物と実在の人物ではキャラクターの作り方に違いはありましたか。

川越 架空の人物は作者の自由にできます。対して実在の人物は、事実かどうかはともかく現代に伝わっている言動が、想像のとっかかりにも制約にもなる、という違いがあります。ただ、フィクションの人物として造形していることは変わらず、その難しさも、ついでに言えば楽しさも、同じです。

――現代では3組に1組が離婚する時代と言われていますが、現代と比べて格段に離縁がしにくかったと思われる時代の夫婦について、この作品を書かれたあと川越さんはどう思われますか?

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川越 江戸時代の雰囲気が残っていたであろう明治16年の離婚率(人口あたり離婚件数)は、令和2年の倍以上で、実はいまよりずっと多くの夫婦が離婚しており(※内閣府「男女共同参画白書」参照)、「現代と比べて格段に離縁がしにくかった時代」はおおまかにいえば明治31年の旧民法施行直後にはじまります。今作で取り上げた時代からは遠く、何か申せるほどの知識はまだ持っていないのですが、21世紀の一市民としての私は、何ごとも自由なほうがいいなあ、と漠然と思っています。

 ただ、自由な振る舞いには責任が生じ、自由なはずの当人を制約するという連環があるように思います。その連環というか渦の中であがく人間のさまが、私の作品のだいたいでテーマになっている気がします。

 また、歴史が題材の小説を書く身としては、その時代ごとの感覚をなるべく大事にしたいと思っています。自分の作品でどれだけできているかは心もとないですが、現代とは違う時代ごとの感覚を取り上げることで、時代を問わず人間が備えている感覚に、ちょっとでも近づけたらいいな、と思っています。

※「男女共同参画白書」令和4年版 コラム2 (図1)離婚率の推移
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyoc02-01.html
 

 

プロフィール:川越宗一(かわごえ・そういち)
1978年生まれ。2018年、『天地に燦たり』で松本清張賞を受賞し、作家デビュー。20年、デビュー2作目にあたる『熱源』で直木賞を受賞。23年、『パシヨン』で中央公論文芸賞を受賞した。そのほかの著書に『海神の子』『見果てぬ王道』『福音列車』『大日の使徒』『絢爛の法』がある。

縁切りの宿 桂屋調べ帖

川越 宗一

文藝春秋

2026年8月7日 発売

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