超高齢社会を迎えた日本で、多くの人が直面する親の介護。なかでも「排泄介助」を負担に感じる人は少なくない。離婚して実家に戻り、認知症の母(82歳)を自宅で介護する野田瑠衣さん(仮名・54歳)もその一人。

 部屋中が便の臭いに包まれ、汚れたオムツを替えるたびに「なんで分からないの!」と怒鳴り散らす日々……。ここではジャーナリストの小林美希氏の著書『介護難民400万人時代 2040年 日本型“超高齢社会”の末路』(朝日新書)の一部を抜粋。きれいごとでは済まされない、家族介護の残酷なリアルと限界に迫る。

写真はイメージ ©hanasaki/イメージマート

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「何かおかしい」。徐々に始まった母の異変

「認知症になると以前の母ではなくなって。今まで当たり前のようにできていたことが、できなくなっていく。仕方ないことだと理解していても、やはり受け入れられないのです」

 北関東在住の野田瑠衣さん(仮名、54歳)は、同居する母親(82歳)の言動に苛立ちが隠せず、自己嫌悪に陥る毎日だ。

 瑠衣さんは子ども2人が乳幼児のうちに離婚。それからは子どもを連れて実家に戻り、両親と暮らしている。仕事で多忙な瑠衣さんを両親がサポートしてきた。その子どもたちは大学進学で家を出て、一人は社会人になって自立している。瑠衣さんの子どもたちが家を出てから母親の張り合いがなくなったのか、少しずつ、行動に変化が現れた。

 もともと母親は浪費家で、父親(84歳)から「お前は紙(お札)を食ってばかりだ」と言われるほど。お茶を習っている母親が自宅でお茶会を開き、茶道の道具一式を買い揃えた。自営の仕事が忙しい時期に手伝わず、勝手に予定を入れて東京に遊びに行ってしまい、新しい洋服がどんどん増えていった。和装が好きな母親は着物も多く持っていたが、ある日、馴染みの呉服店が「今年の着物でーす」と言って、着物だけでなく、買う必要のない長じゅばん、帯、帯締め、帯紐、足袋などフルセットを届けにきた。「支払いはまだです」と言うので、値段を聞くと60万円だという。やむなく父親が支払ったが、瑠衣さんは「何かおかしい」と思うようになった。