親の介護は落胆の連続

 瑠衣さんをイライラさせるのは、母親の「はい、分かりました」だ。

「薬は飲んだの?」と聞くと「はい、飲んだわよ」。「これを持っていってね」と頼むと「はい、分かりました」。「トイレに行きたい?」と聞けば「もう行ったわ」。瑠衣さんが何か言えば、全てに「はい、分かりました」と答えるが、その全てをしていない。「言ったよね」と聞き直すと「なんのことかしら? 私、知らない」と言う。頭の中では理解していても、「全部、嘘ばかり」と腹立たしくなってしまうのだ。

 瑠衣さんにとっては、子ども達に手がかからなくなり「さー、もっと仕事をするぞ」と思った矢先での介護生活の始まり。「母さん、何でこうなるのよ?」と落胆する生活の始まりでもあった。

ADVERTISEMENT

 介護で苦労する一つは、トイレに行けなくなることだ。尿であればオムツを替えるのにさほど手はかからないが、多くの人にとって苦労するのは排便後のオムツ交換だ。瑠衣さんは「ついこのあいだまでできていたことが、どんどんできなくなっていくことが受け入れられない」と悩む。

 要介護になった最初の頃の母親は、尿意を感じてトイレに行きたいと思った時に行けていた。それが間に合わなくなって失禁するようになってからは、下着に大きな尿取りパッドをあてるようにした。パッドをあてていても尿が溢れてズボンを汚すようになってからはパンツ型のオムツをするようになった。

 それでも間に合わずに漏れてしまうようになって、オムツにパッドをあてて二重の吸収体制をとった。そのうち母親は、家のどこにトイレがあるかも分からなくなっていた。

口出しする身内への不満

 遠くで暮らす瑠衣さんの姉は、土日に頻繁に帰省する。介護を担えないからとお金を振り込んでくれ、オンラインショップでオムツを大量に買って送ってくれる。そして、ほとんど毎日、母親に電話をくれる。

 母親は、最近では誰と電話しているのか分からない様子だが、電話の受け答えはしっかりしている。姉は母親の世話や健康面についてあれこれと口をすっぱくして瑠衣さんに注意をするが、瑠衣さんには思うところがある。

 親戚の一人が認知症になると娘が介護していたが、たまに来る息子には、娘が物やお金を盗んだと愚痴ばかり言い始めた。息子がくると認知症とは思えないほど普通に話していたことから、息子も他の親戚も「娘が盗んでいる」という言葉を信じてしまった。その娘は皆から責められ、絶縁状態になってしまった。

 それを知っていた瑠衣さんは、「普段の本人をみていない家族が口を挟むべきではない」という思いが募り、姉の口うるささに嫌気がさしてしまう。