夫に死んでほしいと思うことも

 子どもが中学生になると、塾に行きたいと言い始めた。塾代を稼ぐために夜勤手当で収入を増やそうと、夜勤のシフトに入る回数を増やした。労使協定や夜勤ガイドラインによって夜勤は3交代で月8回以内にすべきところ、美香子さんは上司に「入れるだけ入れてください」と言って、月20勤務のうち14回の夜勤をこなした。上司は「夜勤の負担が重くて申し訳ない」と言ったが、背に腹は代えられなかった。「娘が20歳になったら離婚しよう」。そう決意していた美香子さんは、日々節約し、死に物狂いで働いた。学費も蓄えなければならない。どんなに節約しても、月末に残る給与は1000円程度だった。

「本当に心底、夫がいなくなったらどんなにいいかと思っていました。私は看護師。夫が泥酔している時を見計らって、チューブを使って口にウイスキーを大量に流し込めば死ぬかな。そう思うくらい憎かったです。でも、もちろん、そんなことはできない。子どもたちは成人してもいないし。私が逮捕されては路頭に迷ってしまうと、思い留まりました」

 子ども達が成人して就職した頃、美香子さんは転居を伴う異動を命じられた。「下の子も就職したし、もう、いいや!」と異動を承諾し、夫との別居生活が始まった。その間、夫には内緒でマンションを購入した。転勤から戻っても夫の元には戻らずマンションに住んだが、夫は美香子さんに住所すら聞かなかった。

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 友達に一人暮らしの経緯を話すと、「それって、DVだったんだよ。逃げて当然」と言ってくれた。5年も別居生活を送ると、夫がいない生活が普通になっていった。「ああ、これでやっと私の人生を送ることができる」。そう思った矢先、夫が倒れたのだった。

夫の救急搬送に、「全然心配じゃない」

 一人暮らしをしていた夫と夫の従兄弟が一緒に新型コロナウイルスの感染予防ワクチンを打ちに行こうと約束していた。夫が時間になっても現れないため、従兄弟が家に迎えに行くと、夫が吐いたまま床で寝ている状態。従兄弟が救急車を呼んだ。従兄弟から「吐いて倒れている」という連絡を受けた時に真っ先に思ったのが「めんどくさいなぁ」だった。

 戸籍のうえでは妻である美香子さんは入院手続きをしなければならない。まだ詳しい病状を知らない美香子さんは「どうせ食中毒か何かでしょう」「私の住所が知られたら嫌だな」と思いながら、しぶしぶ病院に向かった。

 到着すると、「救急に行ってください」と案内された。夫は脳内出血がひどく、意識不明の状態。手術しても救命できないかもしれず、助かっても半身にマヒが出ると説明を受けた。