夫がとにかく憎い理由

 夫には言語障がいが出て、右半身にマヒが残った。在宅介護になることは避けられず、美香子さんはすぐさま病院の職員に「すぐにソーシャルワーカーに会いたい」と申し出た。

 ソーシャルワーカーとは、生活相談員のことで、福祉・医療・介護サービスの紹介や手続きを支援する。病院側は「もう少し状態を見ないと介護が必要か分かりませんよ」となだめたが、「私、この人の介護をする気なんてないんです! 自宅には連れて帰りません」と、ここで初めて本心を明かした。「私、DVサバイバーなんです。家を出て逃げたんです」と、強く言った。看護師に事情を話すと、「それは逃げて良かったですね。正解ですよ」と共感してくれた。

 子どもたちは38歳、32歳、30歳とそれぞれ大人になっている。看護師になった長子に状況を連絡すると「あー、厳しいね」と反応はアッサリ。小学校の高学年から中学にかけて塾に通うお金がなく、美香子さんが苦労していた様子を目の当たりにしていたため、父親との折り合いが悪かった。他の子どもたちも、動揺する様子もなく、心配もしてはいなかった。子どもたちにLINEで父親の状況を連絡しても、いつしか「既読スルー」になった。

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「本心を言えば、夫が助からなかったら良かった。従兄弟が発見しないで放置されていたら死んだのに」

 従兄弟には感謝の言葉を伝えたが、内心では「チッ。助けちゃって。もし私が発見していたら、すーっとドアを閉めて、何も見なかったようにして帰って、明日また来ようと思ったはず」。これまでの夫との嫌な思い出が走馬灯のように浮かんでくるのだ。

 美香子さんが夜勤で疲れて帰ってきて眠りたいのに、夫はおかまいなし。大音量でテレビを見ていた。夜勤から帰宅すると、娘が大きな声で泣いて嘔吐していたが、夫は何の対応もしていなかった。夜勤と保育園のお迎えが重なった時に夫にお迎えを頼むと、お迎えがこないと保育園から勤務先の病院に電話が入った。まさかと思ってパチンコ店に電話をかけたら、夫がいた。

 娘が初潮を迎えた時に美香子さんが勤務中で夫は何もしてくれず、美香子さんの姉がナプキンを買ってくれていた。夫は息子が遊んでいるゲームをとりあげて、自分がゲームに夢中になっている。美香子さんの父親ががんの手術を受ける時、美香子さんが病院で付き添う必要があっても、夫は朝ご飯すら作らない。朝早くいったん帰宅して子どもたちのおにぎりを作って、また病院に向かった。