まだ夫が会社勤めをしていた時は、美香子さんが深夜0時頃から夜勤であることが分かっているのに、23時頃に帰ってきた。これでは、夜勤前に仮眠もできず、子どもたちを置いて出勤しないと間に合わない。夫が会社を辞めて義母の世話をすると言ってからは、美香子さんが作った料理を運ぶだけで、あとはパチンコ三昧。
その夫が今、意識レベルが低下して目も開けられないまま人工呼吸器につながれてベッドに横たわっている。在宅介護になれば、口から食べられないだろう。胃ろうを作ることになると予想された。また、チューブからウイスキーを流し込む自分を想像してしまう。
介護は断固拒否
「私は絶対に介護なんてしない。なけなしのお金をはたいても介護施設に入れて、私は介護なんてしたくない。結婚して楽しかったことより、辛かったことのほうが100倍、200倍もある。介護なんて、ムリ、ムリ、ムリ!」
入院中の着替えの洗濯をするのに夫の衣類に触りたくもないため、ビニール手袋をはめる。治療方針を承諾するサインもしたくない。夫のために何ひとつしたくない。
こうした気持ちでいることなど、他人は知る由よしもない。「大丈夫?」「大変ね?」「食べてる?」「仕事できる?」と同情や心配をされるのが苦痛だった。「私、大丈夫だし、ビールも飲んでいるし、仕事したいし」と反発したいが、大人げないため、愛想笑いするしかない。
美香子さんにとっては、「妻の私が看護師だから夫を在宅でみられると思われそうなのが、恐怖でしかない」。なのでソーシャルワーカーには「私は夫を介護する気はない。もし介護したとすれば、何かしてしまう」と強調した。
夫は気管切開をして酸素を取り込むなど医療行為が必要なため介護施設には移れなかったが、療養型の病院に転院することができた。約1年半後、病状が急変して亡くなった。
年末に亡くなったことで葬儀も火葬も日数を要し、それまでの間、遺体を引き取るのも美香子さんにとっては苦痛でしかなかった。湯灌、納棺で夫の身体に触れるのも、嫌で嫌で仕方ない。
そうした“夫婦”の現実もある。戸籍でつながっているからといって家族であるわけでもなければ、介護できるとも限らないのだ。