4年ぶりに顔を見た夫は、口から気管チューブを挿入して気道を確保する「気管挿管」をされている。その姿を見て、「え、そんなに悪いんだ」と思いながらも、夫を家族と思えない。どこかの患者を見ている感覚しかなかった。

 夫の入院先の看護師が気遣って「大丈夫ですか」と声をかけてくれるが、冷静に「大丈夫です」と答えてしまう。「あれっ? こういう時って、家族は泣くものだったっけ? ショックを受けたようにリアクションしないと変に思われる?」と焦ったものの、看護師には「夫と一緒に暮らしていないので」と、そっと打ち明けた。

 こうした家族の状況は、病院側にとって治療の方針などを考えるうえで重要なことだと、美香子さんは分かっていた。それでも看護師が美香子さんを心配してくれて何度も様子を見に来るため、美香子さんは「夫のことなんて全然心配じゃないのに申し訳ない」と思うばかりだった。

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人工呼吸器が外れたら先が長くなるぞ、という心配が…

 手術を受けた後、夫はICU(集中治療室)に入った。そこで人工呼吸器を外すことができなければ、酸素を送るために気管切開を行うと告げられた。この時も、美香子さんの気持ちがざわつくことはなかった。「一回でも夫に死んでほしいと思ったことがあって、それが現実になろうとする時、こんな冷静な気持ちになるんだな。冷静でいると病院の職員から変な目で見られはしないか、そういう心配をして、普通の家族のリアクションをしなければと思うもんなんだな」

写真はイメージ ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 夫はSCU(脳卒中集中治療室)にも入って治療を受けていたが、左脳にダメージを受けて右半身が全く動かない。看護師とはいえ美香子さんは小児科で働いていたため、大人の入院患者を看護したことはない。

 人工呼吸器がついている状態でベッドに横たわる大人の男性の状態を見て「普通の人が見たら、どんなリアクションをするのかな」と想像したが、悲しそうなふりはやりきれなかった。またも看護師が気遣って「(夫の身体に)触っていただいても大丈夫ですよ」と言ってくれるが、美香子さんは内心「私、夫に触りたくないんだけど」と思いながらも看護師の手前、愛想笑いをしてやむなく夫の手だけ触った。気持ち悪いとしか思えなかった。

 この時に考えたことは、こうだ。「もし、しばらくして夫が自力で呼吸することができるようになると、人工呼吸器が外れる。そうなったら、これは先が長くなるぞ」。そうした心配が襲った。夫に介護が必要になることが目に見えるからだ。