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かつて常磐線を走っていたビジネス特急が……

「伊豆クレイル」は4両の電車で編成されている。1号車はお2人様用。海に面して窓側にカウンター席、山側の向かい合わせ席は床が高くなっており、どの席からも海の眺望が楽しめる。2号車は乗客に開放されたラウンジとバーカウンター。ラウンジでは地元のアーチストによるミニライブが開催される。3号車は4人掛けのコンパートメント席。海に面した大きな窓が区画ごとにある。4号車は2人掛け席。ゆったりしたリクライニングシートと4人用ボックスシートがある。

海側にカウンター席、山側に一段高い合わせ席が設置されている1号車
2号車のラウンジではミニライブも開催

 1号車と3号車は食事付きツアー商品として販売される。4号車は快速列車のグリーン指定席という扱いだ。

「伊豆クレイル」を満喫するなら食事付きがオススメ。箱根の寄せ木細工の箱に入ったお弁当は伊豆や箱根など、地元の食材をふんだんに使っている。料理の監修は秋元さくらさん、東京・目黒のフランス家庭料理レストラン「モルソー」のオーナーシェフだ。NHK「あさイチ」の料理コーナー出演でも知られている。4号車はひとり旅やグループ旅行など、弁当持参で乗りたいときに便利だ。小田原駅には小鯵や金目鯛の押し寿司の駅弁がある。

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個室感のある3号車
地元の食材がふんだんに使われたお弁当

「伊豆クレイル」は、花柄の外装と華やかな客室インテリア、食事サービスに至るまで、女性客を意識したデザインだ。じつはこの電車は新造ではなく、かつて常磐線で「スーパーひたち」として活躍した651系電車をリフォームしている。ビジネス特急からリゾート行き観光列車へと華麗な転身を遂げている。

レジャー産業として「女性に好かれる」要素は必須だ

 全国に観光列車と呼ばれる列車は100種類以上ある。その中にはフルーツやスイーツをテーマとした列車もあるけれど、内外装を含めて「女性受け」を前面に押し出した列車は「伊豆クレイル」が初めてだ。

 

 若い女性と旅行の相性は良い。その象徴となった現象が1980年前後の「アンノン族」だ。高度経済成長から続く好景気と、女性の社会進出を背景に、ファッション誌「an・an」「non-no」が誕生。その旅行特集に導かれて、雑誌を片手に観光地へ出かける若い女性たちを「アンノン族」といった。

 当時のアンノン族はいま60代から70代。子育ても終わり、孫の成長を楽しみに優雅な暮らしを楽しむプチ富裕層になっている。「伊豆クレイル」は若い女性をターゲットにしているけれど、あの頃、若い女性だったアンノン族シニアにもハマる列車だといえる。

 観光列車は「運輸業」よりも「レジャー産業」の性格が強い。レジャー産業として「女性に好かれる」要素は必須だ。同じ世代の男性より可処分時間と可処分所得が多いからだ。そして、女性が集まる場所には男性が引き寄せられるし、女性が好む場所は男性も誘いやすい。そう考えると、鉄道事業者がレジャー産業の本質に気づいたという意味で、「伊豆クレイル」の誕生は重要だ。「伊豆クレイル」はレジャー産業の王道を行く列車だ。

 

写真=杉山秀樹/文藝春秋