ヒトの遺伝子数は2万2000、宇宙の年齢は138億。はたまた“3秒ルール”は本当か? 世界を数字と科学で読み解こう――。サイエンスライター・佐藤健太郎さんの新刊『人に話したくなる数字と科学の話』(文春新書、8月20日発売)には、ちょっとした話題にぴったりの79のトリビアが収録されている。
今回はその中から、「2531」についての一話をお届けしよう。
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日本人が全員佐藤になる年(?)【2531年】
2024年4月、面白いニュースが流れた。東北大学の試算によれば、現在のペースで結婚・出産が行われていくと、西暦2531年に日本人全員が佐藤姓になってしまうというものだ。佐藤姓のルーツは11世紀ごろに遡るといわれるが、そこから約1500年をかけて佐藤一族が天下を統一するというのだから、佐藤姓を名乗る一人としては実に感慨深い。
冗談はさておき、現在の日本に佐藤さんは約190万人いると見られ、これは日本の人口の約1・5パーセントに相当する。これがたった500年で100パーセントになってしまうというのは、にわかには信じがたい。だが姓は基本的に新たに発生することはなく、婚姻や死亡によって減少していくから、思ったよりも速いペースで減っていくものなのだ。
韓国や中国では日本よりも寡占化が進んでおり、たとえば韓国では金姓が人口の約2割を占める。中国では、歴史的に約2万4000種の姓が記録されているが、現在使われているのは6000種ほどだ。これは、先祖伝来の名字を変えることなく受け継ぐ文化であったことが大きい。日本では、新しい土地に移るとその地名を名乗ったり、分家すると姓の字を変えたりといったことが広く行われてきたため、姓の種類が約13万種(諸説あり)にも及んでいる。しかし明治維新後は姓が新設される機会がぐっと減ったため、日本の姓も減少の道を辿り始めている。
冒頭で紹介した研究は、選択的夫婦別姓を推進する団体の依頼で行われたものだ。ただ、日本人の姓の多様性を保ちたいのであれば、姓名制度を変えるよりも少子化対策の方が効果的だろう。ほとんどの人が同じ姓になってしまっている集落をみればわかる通り、総数が少ないほど多様性の喪失も早いのだ。何しろ先のシミュレーションによれば、2531年の日本の人口は何と約28万人と推定されている。佐藤姓が天下を統一するというより、日本人がほぼ滅びて、最後に残るのが佐藤姓という方が実態に近い。姓の減少を心配している場合ではないだろう。
もう一つ姓の多様性を保つ方法として、移民の受け入れがある。外国人の帰化は姓が増加する数少ない機会であり、たとえば白鵬や小錦は#四股名#しこな#をそのまま姓にしている。しかし移民との共生は当然互いに多くの困難を伴い、そう簡単に進められる事柄ではない。姓を、国を保つのは、想像以上に難しいことのようだ。
