その後、金氏はこの情報収集活動が原因で2015年10月に北朝鮮当局に拘束され、2018年5月に解放されるまで「囚人429号」として抑留生活を送った。しかし金氏によれば、拘束が解かれた後も国家情報院からは何の連絡もないという。
また、2008年8月には、韓国合同捜査本部が北朝鮮の女性工作員と、交際相手の韓国陸軍大尉(当時)らを国家保安法違反容疑で逮捕する事件も起きている。
この女性工作員は、韓国へ入国する前の約2年間、延吉市にある北朝鮮経営のホテルを拠点に活動し、北朝鮮の情報を収集しようとする脱北者や韓国情報要員ら約100人を拉致したと裁判で証言している。その後、北朝鮮の国家情報局(旧国家安全保衛部・秘密警察)の指示で2001年10月に韓国へ入国し、主に脱北者の情報を収集していた。
ある時、彼女を脱北者だと信じた韓国情報要員が接近してくると、国家情報局の上司は「祖国の情報を盗もうとする奴らだ」と怒り、工作員に毒薬や毒針を渡して殺害を指示したという。
日本でも両国のスパイが…
南北の暗闘を巡り、日本も無関係ではなかった。上述の北朝鮮女性工作員は07年から08年にかけ、日本にも3回入国していた。いずれも脱北者情報の収集が目的だったという。北朝鮮だけではない。韓国側も日本を舞台に北朝鮮の情報を収集している。代表的な例が、金正恩総書記の異母兄で、2017年2月に暗殺された金正男氏だ。
金正男氏は1990年代を中心に、たびたび訪日した。六本木に近い赤坂の外れにあったクラブ「ベラミ」がお気に入りの店だった。正男氏はたびたび、ベラミで働く女性を「お持ち帰り」していた。当時は正男氏が次の北朝鮮最高指導者に就く可能性が高いとみられており、韓国側要員はベラミの女性たちに片端から聞き取りを行い、正男氏の情報収集に熱中した。
韓国の元要員の一人は「日本では銃の携帯は違法だから、護身用にガス銃や電気ショックを与える銃などを携帯していた」と語る。相手と一緒に酔って情報を聞き出す際、酔いを抑える薬や、相手の弱みを握るための小型カメラも所持していたという。
