イラン戦争は収束せず、ロシアによるウクライナ侵攻は5年目に突入。中国は台湾統一や海洋進出の野心を隠さない。大国が力による現状変更を行う時代に戻りつつあるのはなぜか。ベストセラーの著者と池上彰が語り合った。

池上 川北さんがお書きになった『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』(講談社現代新書)を面白く読みました。現在の世界情勢を、「レコンキスタ(失地回復)」というキーワードで見事に読み解いていますね。

川北 ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻、中国の習近平国家主席が唱える「中華民族の偉大な復興」、アメリカの大統領に返り咲いたトランプ氏が連呼する「MAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大に)」。3人のストロングマン、つまり強権指導者とその主張を並べたとき、共通する強い意志。それはレコンキスタだ、と思い至りました。

池上 レコンキスタは「再征服」という意味のスペイン語で、中世ヨーロッパにおいて、キリスト教勢力がイスラム教徒からイベリア半島を取り戻そうとした国土回復運動を指します。

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 ちなみにスペインでは豚肉料理が有名ですが、レコンキスタが関係しているんです。スペインが領土を取り戻したとき、敵か味方かを判断するために豚肉を食べさせたんですね。イスラム教徒なら断りますから。それでスペインでは豚肉料理が広まったという話を、現地で取材した際に聞きました。

川北 踏み絵ならぬ踏み豚ですか(笑)。

池上 余談でした。確かにロシアだけでなく中国もアメリカも、リーダーが力によって現状をひっくり返し、過去の栄光を取り戻そうとしています。

 三つの大国だけではありませんね。トルコのエルドアン大統領は、議会制民主主義を大統領制に変えて、イスラエルを激しく批判するなど、イスラム圏のリーダーのような発言が目立ちます。「オスマン帝国の栄光よ再び」と願っているようです。

ネタニヤフと高市首相の共通点

川北 イスラエルのネタニヤフ首相も、「大イスラエル構想」を実現させようとしています。そういった意味では日本の高市総理も、強い指導者に連なるのかもしれません。

川北氏

池上 レコンキスタの先駆けは、ロシアによるウクライナ侵攻でした。プーチン大統領は、2021年7月に「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題する長い論文を書いて、両国はそもそも民族が同じであるとか、ウクライナはロシアの一部だとか主張していました。

川北 プーチン大統領の歴史観が、如実に示されていましたね。それを7カ月後に行動で具体化したのが、軍事侵攻だったと解釈できます。復讐心に突き動かされた「リバンチズム(報復的失地回復)」です。

池上 冷戦終結とソ連の崩壊で失った勢力圏を奪回すると共に、間近に迫ってきたアメリカ主導の自由主義を押し戻そうというわけですね。

川北 反米共闘の友として登場したのが、習主席です。ロシアと中国が似ていると思ったのは、ウクライナ侵攻の20日前、北京冬季五輪の開会式前に両首脳が会談したときでした。発表された共同声明に、「ロシアと中国の新たな関係は、冷戦時代の政治・軍事同盟をしのいでいることを再確認する。友好関係には限界はなく、禁じられた協力分野も存在しない」とあって、西側諸国はざわつきましたね。あのとき、プーチン大統領と習主席はレコンキスタの友でもある、と思ったんです。