塚原大助(以下、塚原) 戦争を題材とした映画やドラマはいろいろ観てきましたが、台湾の視点から太平洋戦争を描いた作品には触れたことがなかったんです。脚本を読み、当時の台湾の方々の葛藤や誇りが深く描かれていると感じました。

日本で準備し、台湾の現場で変化する

 演じる田中徹は、日本軍の司令官として捕虜収容所を統率するべく規律を重んじ、その命令によって台湾人の捕虜監視員を追いつめていく。恐るべき上官だが、「日本人として認められたい」と願う者にとっては従うべき権威であり、評価されたい人物だ。

「波の音色」塚原大助

 塚原は、田中という役柄を「戦時下で自らの責任を全うしなければならないと同時に、葛藤も抱える男」と見ている。80年前の軍人と自らをつなげるため、早くから脚本を読み込み、アクティングコーチと協力して役づくりを重ねた。当時の資料にもあたり、監督と脚本家が田中を造形するため参考にした、実在の軍人たちを突き止めていたという。

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 それでも、撮影のために台湾を訪れ、組み上げられた収容所のセットに身を置くことは、あらゆる準備にもまさる経験だったようだ。

塚原 日本でいろいろと準備したことは根底にありつつ、あの空間に1か月以上身を置くことできちんと役に入れたように思います。周囲の環境や、目の前にいる相手の芝居こそがすべてで、それらを受け取ることに自然と集中することができました。

 撮影開始から3日目、塚原が初めて参加したのは、およそ100人ものキャストが捕虜の収容場面を演じる大規模な深夜撮影だった。

「波の音色」

監督 とにかく人物が多く、動きも複雑なシーンだったので、塚原さんをセットで数時間もお待たせしてしまいました。しかも、田中はセリフが一切なく、司令官として遠くにたたずんでいるだけ。そのワンカットのために、ずっと待っていてくださったんです。

 その待ち時間に、塚原は収容所のセットを見て回った。物語が始まった時点で、田中は司令官としてボルネオに着任して3年が経過している設定。セットの建物すべてに入り、小道具に触り、司令官室の机に向かいながら、作品や役柄について考えていたという。

監督 塚原さんの作品に向き合う姿勢に感動しました。田中という男は、自分自身の命令にどこまで忠実になれるのか、どれほど強い意志の持ち主なのか――。脚本を超えて、田中という人物をともに探究できたように思います。