従って「跳弾があったか、なかったか」は最高裁では議論にならない。基本的には「跳弾によりXの銃は破損した」という第二審の事実認定を引き継ぐしかない。

 そのうえで最高裁は、「跳弾による破損はXが池上の指示に従わずに池上の射線の位置に移動したことに起因する」という可能性を指摘した。つまり池上の一方的な責任に帰するべきではなく、今回の処分は「重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠く」と断じたのである。

人の背丈を超える巨獣に立ち向かい続けた(池上氏提供)

廃棄されたライフル

 さらに最高裁は、判決文のなかでハンターによる羆の駆除は、〈周辺住民等の生命、身体、財産及び生活環境の保護に資するという重要な意義を有する活動〉であると明確に認めた。異例のことである。

ADVERTISEMENT

「ここまで現場のことをわかってくれるのかという2倍の喜びがあった」と池上は語る。

 対照的だったのは警察の対応だ。

 真冬にストーブも焚かない極寒の部屋で長時間の取り調べを受けた。

「ある刑事から『もしそこにクマでなくヤクザがいたら撃つかい?』とか『クマはあなたに噛みついたり爪を立てたりしたわけではないので、害獣とは言えない』とも言われたな。オレたちが地域社会を守るために駆除を行っているということをまったく理解していないんだ」

池上治男氏(筆者撮影)

 それだけではない。最高裁の判決後、池上が押収された二挺のライフルの返還を求めたところ、そのうちの一挺を札幌地検が廃棄していたことが判明したのである。

 地検側は、捜査段階で池上が銃の所有権放棄書にサインしたとしているが、池上は憤りを露わにする。

「その銃を返してくれ、という裁判までしている人間が、そんな書類にサインするわけないでしょ!」

※約9100字の全文では、「初めて撃った羆」について池上治男氏が語っています。全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』に掲載されています(伊藤秀倫「銃を奪われた熊ハンターの7年戦争」)。

■伊藤秀倫(いとう・ひでのり) 1975年生まれ。東京大学卒業後、文藝春秋入社。「文藝春秋」「週刊文春」編集部などを経て2019年に独立し、札幌に移住。著書に『ペットロス』(文春新書)

文藝春秋

この記事の全文は「文藝春秋PLUS」で購読できます
銃を奪われた熊ハンターの7年戦争

出典元

文藝春秋

【文藝春秋 目次】高市早苗研究 裏切りと涙のサナエ劇場/米追従は自殺行為だ E・トッド/特集 70歳からが最幸

2026年8月号

2026年7月10日 発売

1280円(税込)

Amazonで購入する 目次を見る
次のページ 写真ページはこちら