「この二人を守り、絶対に幸せにする」

 莉子ちゃんは小さな手で、松永の指をぎゅっと握り返した。その手は驚くほど柔らかく、ぬくもりがあった。抱きしめると、なんともいえない優しい匂いがした。その瞬間、「自分の子なんだ」と思うと同時に、父親になった。泣き続ける莉子ちゃんと、涙を流す真菜さんを見ながら、命の尊さを教えられた。

「この二人を守り、絶対に幸せにする」と心に誓った。

 育児や家事は大変だったが、真菜さんがミスをすることはほとんどなかった。夜八時の寝かしつけ時間も必ず守っていた。物事をこなすスピードが恐ろしいほど速く、マルチタスクも難なくこなしていた。

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 松永が「なぜそんなに処理能力が高いの?」と聞くと、「常に三つ四つ先のことを考えながら、目の前のことをやっているから」と話していたという。松永は真菜さんの昔の同僚からも「真菜の仕事は完璧で、患者さんからの信頼も厚かった」と聞いていた。

 春は花見、夏は海やお祭り、秋は紅葉を観に行き、冬は莉子ちゃんが好きだった温泉に行った。一番の思い出は、二〇一八年夏の北海道への旅行だ。莉子ちゃんは美瑛町の広大な大地を走りまわり、旭川市の旭山動物園のキリンを見て喜んだ。

 真菜さんは出産後、外で働かず、育児に専念していた。育児日記には莉子ちゃんの成長が生き生きと描かれている。莉子ちゃんが「トラック」「スプーン」「フォーク」と話したのは一歳五か月。

 一歳九か月で地図を見て、東京、沖縄の位置関係を理解していた。一歳一〇か月、公園で花を摘んだ際に「花瓶にいけよう」と言い、左右の概念も理解していた。二歳のとき、「吉祥寺のマリメッコいく~?」と聞いた。

 莉子ちゃんは家にある絵本を暗唱できた。字が読めないにもかかわらず、『はらぺこあおむし』(エリック=カール作)を一回読み聞かせただけで〈「おや、はっぱの うえに ちっちゃなたまご。」〉という書き出しを暗唱できるようになった。

 そして五〇冊超の絵本の文章が頭に入っていた。ことわざのカルタも、一週間で全四四組を記憶して「飽きたー」と言った。「ABCの歌」を聞いた数日後に「きらきら星」が流れると、「これ、同じだねー」と話した。両親は理解できず「これは違う歌だよ」と言ったものの、しばらくして音階が同じ曲だと気づいた。

「ちゃらんぽらんの僕から、何でこんなに賢い子が産まれたのかな。本当に僕の子供かな」