2019年4月19日、松永拓也さんから妻子を奪った池袋暴走事故。事故から半年後、警視庁から妻・真菜さんと娘・莉子ちゃんの遺品が返却された。

 松永さんは、莉子ちゃんのパジャマや真菜さんの麦わら帽子を手に取り、思い出を語る。しかし、血の跡が残る服を前にすると「やっぱり無理だ」と泣き崩れた。

 さらに事故でバラバラになった親子用自転車を目にし、「せめて痛みを感じないで逝ってくれていたら」と嗚咽する。それでも松永さんは、事故の現実を伝えるため「全部書いてください」と取材者に託した……。

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 被害者遺族・松永拓也さんの覚悟を、TBSテレビ守田哲氏の新刊『池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日』(文藝春秋)よりお届けする。(全3回の3回目)

2019年4月19日、松永拓也さんから妻子を奪った池袋暴走事故(写真:時事通信社)

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戻ってきた遺品

 署名活動がひと段落し、日常生活を取り戻そうとしていた九月二三日。警視庁から妻子の遺品が返却された。数日後、松永は私に電話で「遺品が戻ってきたんです」とだけ告げた。

 一〇月一一日金曜日の夜、松永の自宅を訪問した。私に遺品を見せるのかどうかは曖昧な状態だったが、どちらにしてもかなりの精神的負担が予想されたため、翌日が休みの日を選んだ。

 実家ではなく彼自身の部屋に入るのは初めてだった。松永が鍵を開けてドアを引き、玄関にある室内灯のスイッチを押した。

「暗いと二人がいないという現実と直面してしまうから、やっぱりつらくて。狭い玄関ですけど父の日の動画もここで出迎えてくれて。家には思い出が山ほどありますから」

 部屋のカレンダーは、二〇一九年四月のままだった。緑の小さな置時計の針は時を刻んでいたが、ペッパーミルの胡椒の粒も歯磨き粉のチューブの凹みも、あのときのままだった。砂時計の砂が落ち切った後のようだった。