「ああ、やっぱり無理だ。ごめんなさい」
松永が指をさした。
「あれが警視庁から返却されたものです」
寝室の畳の隅に、二つの大きな紙袋があった。松永と私は袋の前に立ち、沈黙が続いた。なかには複数のビニール袋やチャック付きポリ袋が入っていた。「もともとは血まみれだったらしいんですけど、警視庁の方がある程度洗ってくださって」
しばし沈黙して、松永が言った。
「まだ見てないんですけど。なんか見れなくて」
私は、松永が警視庁から返却された遺品をすでに見ている、あるいは見る心の準備ができているものだと決めつけていた。
松永が遺品を凝視して二〇秒が経過した。小さく「うん」と自らに言い聞かせながら、大きな紙袋のなかから右手で小さな紙袋を摑んで外に出した。さらに、そこからチャック付きポリ袋を左手で取り出す。小さな透明な袋に入っていた子供用のブラウスは、事前に警視庁がある程度洗っていたものの、赤い斑点がついていた。
「ああ、やっぱり無理だ。ごめんなさい」
元の場所に戻し、松永は泣き崩れて片膝をついた。ガックリと頭を垂れ、目を閉じた。
「本当に申し訳ない。こんな因果な仕事で」
私は頭を押さえつけられるような耐えがたい力を感じ、逃げるように、「拓也さん、申し訳ない。本当に申し訳ない。こんな因果な仕事で」と口走った。
松永は私を一瞥もせず、「いや、大丈夫です。いや、いいです。大丈夫です。大丈夫です」と何度も瞬きをした。袖で涙を拭い、意を決して妻子のブラウスを取り出した。
「ぼろぼろだな。これは。真菜はZARAで、莉子は違うメーカー。デザインが似ていて、『なんか、お揃いみたい』って。ことあるごとにセットで着て」
警視庁の担当者から、「持って帰ってもいいし、こちらで捨ててもいいし、選んでください」と言われた。
「でも、わかんないじゃないですか。どっちがいいかなんて。そんなの決められないですよ。だから、とりあえず受け取って。でも、目の前にあったらしんどいですよ。時が経ったらどうしようか決めようと思って」
撮影中のカメラマンも泣いていた。松永は「これって放送に耐えられるんですか」と尋ね、私は「全部放送しますよ」と冷静を装って答えた。