泣き崩れ、嗚咽する松永さん

 次に真菜さんの麦わら帽子をそっと取り出し、優しい手つきで右手にのせた。松永が回想する。ある日、莉子ちゃんを寝かしつけた後に、真菜さんが「ひとつわがまま言っていい? 麦わら帽子がほしいんだ。ネットで一九八〇円なんだけど買っていいかな」と言った。

「そんなのいいに決まってんじゃん。そんな小さなことまで……」

 松永は泣き崩れた。そして逡巡しながら、小さな青いサンダルを意を決して取り出した。「莉子も足がちょっと大きくなって」。嗚咽した。

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「買ったばっかりで。綺麗なんですけど」

 遺品の説明を続けようとする松永に、私は「拓也さん、もうやめよう」と声をかけた。松永は手を止めて黙った。そして、手元の遺品に神経を集中させながら語った。

「交通戦争の時代が終わったとはいえ、今も一年で三〇〇〇人以上、一日平均で九人から一〇人亡くなっている。こんな痛ましいことが毎日毎日起きている。ほんの数時間前まで過ごしていた日常を、一瞬で奪ってしまう。

 事故を一件でも減らしたいから、遺族の現実を知ってほしいから、写真や動画を公表したんです。真菜は恥ずかしがり屋だからやりたくなかったんですけど。こんな情けない姿をさらすのも、同情して欲しくてやってるわけじゃない。僕は命が尽きるまでやる。それが二人との約束だと思ってる」

 松永は私への忖度など眼中にはなく、自分の意志で服を取り出していた。

 衣服だけではなく、別の遺品も警視庁から返却されていた。

 松永の精神状態を考え、別の遺品については六日後の夜に再訪した。松永がアパートの倉庫に案内してくれた。数十平方メートルの倉庫はアパートの敷地内にあり、道路に面していた。