「全部書いてください」
松永が直面している現実を伝えよう。
私は一貫してそう考えていたが、プライベートな部分をどこまで描くか悩んだことがある。
松永に相談したところ、彼はしばらく考え、自身に言い聞かせるように話した。
「全部書いてください。真菜は僕の考えを支持してくれると思う」
松永は常識的に考えれば、遺族として目を背けたい事故の現実に徹底的に向き合っていた。
事故の再発防止を「二人との約束」と語る松永は、後の裁判でも明らかになるが、車の専門的な知識を習得した上で、自分なりに原因を究明しようとしていた。そんな松永の姿を見て、私は「ここまでやるのか」と常に感じていた。
それでも松永が見ることができなかったものがある。
それは、真菜さんと莉子ちゃんの遺体や服だ。事故の最終的な現実を正視することは、松永にとってさえも酷なことだった。
ある日、私は写真で二人の遺体と血で染まった服を確認できる機会があった。松永に事前に許可を得ようとも考えたが、見方によっては松永に責任を負わせるかたちにもなる。思い上がりかもしれないが、取材者として自分の責任で、自分の眼で見ようと判断した。
実は、私の妻は、過去に大きな交通事故に遭って報道されたことがある。当時は結婚前だったが、交際相手として辛い思いをしたし、当時、メディアに対する不信感を抱いた。
幸いなことに妻は大手術を経て体調は回復した。しかし、一生手に残ることになった傷と日々向き合っている。この経験は松永と信頼関係を築くきっかけになったような気がする。