莉子ちゃんが着ていたパジャマ

 松永が事故後に帰宅したところ、洗濯物入れにパジャマが入っていた。咄嗟にパジャマに鼻を近づけると、莉子ちゃんの匂いがしたという。

 その匂いが消えないように、娘の生きた痕跡を残そうと、パジャマを慌ててビニール袋に入れた。松永にとって、平日の莉子ちゃんはパジャマ姿の印象が強い。

 帰宅後も出社前もパジャマ姿だったからだ。

ADVERTISEMENT

「莉子が家で走り回っている姿が思い浮かぶんですよ。事故は金曜日だったから、事故がなければ夜に『明日はお休みだよ』って言ったと思うんです。生まれたときもね、なんともいえない優しい匂いだったんですよ。残念だけど、パジャマには匂いはもう残ってない」

 松永の問わず語りは、朝まで続くのではないかと思うほどだった。このまま事故の遺品に話が及ぶ可能性が頭をよぎった。あまりに重すぎる。一度小休止をしないと松永がもたない。

 晩酌の缶ビール一本が欠かせなくなったという話を思い出し、食卓に誘った。元々酒はたしなむ程度だったが、不眠が原因で晩酌が止められなくなったという。ビールを飲み終えて、つぶやいた。

「この食卓で、僕が愚痴をこぼしたとき、ただただ微笑んで聞いてくれて。真菜は同調して人を馬鹿にしたり、自慢をするようなことも一切ない。僕が持っていないものをすべて持っていて、学ばせてもらって、本当に尊敬しています」

 手つかずの部屋に溢れる数々の遺品は、亡き人の在りし日の「生」を想起させた。カメラマンは一旦収録を止めていたが、雰囲気を察して再びカメラを担ぎ、録画ボタンを押した。