1816年秋、小鳥狩りの最中に家臣とはぐれた浜松藩主・井上正甫。喉の渇きを癒やすため立ち寄った農家で一人留守番をしていた農婦に目をつけ、40歳を過ぎた藩主は突如襲いかかる。そこへ怒り狂った夫が乱入し――。

 色欲に囚われた愚かな大名の正体を、歴史作家の河合敦氏の新刊『日本史人物 死ぬほど痛いかすり傷』(三笠書房)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目)

写真はイメージ ©getty

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色香に惑わされた愚かな大名

 色香に迷って人生を棒にふる人は、いつの時代にも後を絶たない。江戸時代の浜松藩(静岡県)主・井上正甫もその一人である。

 文化13年(1816)秋、正甫は高遠(長野県)藩主・内藤頼以の誘いを受け、その下屋敷で小鳥狩りを楽しんだ。正甫と頼以は同じ幕府の奏者番(将軍と諸大名の謁見の取り次ぎ、将軍への献上品の披露などをおこなう)であり、年齢も近かったので、仲がよかったのだろう。

 江戸時代の大名屋敷は驚くほど広大で、3万3000石の高遠藩も下屋敷は8万坪の広さを持っていた。しかも、すべて塀や堀で囲っているわけではないので、正甫は鳥を追いかけているうちに家臣たちとはぐれたうえ、下屋敷に隣接する千駄ヶ谷村に入り込んでしまった。

 そこで家臣が探しに来るまで、このあたりを動かないことにした。ただ、鳥を追い続けて喉が渇いたので、近くの農家に入り、なかにいた農婦に飲み物を所望したところ、彼女は喜んで正甫を室内に招き入れ、茶を入れてくれた。

 見渡しても室内には誰もいない。聞けば、夫は野良仕事に出ていて彼女一人だという。それを聞いたとたん、正甫は欲情をおさえ切れなくなってしまった。すでに40を過ぎた分別ある年齢なのに、いきなりその農婦に襲いかかり、強姦しようとしたのである。