2023年10月7日のハマス越境攻撃に端を発するイスラエルの大規模軍事作戦で、ガザでは甚大な死傷者・避難民が発生し、停戦・人質解放交渉、援助物資搬入等をめぐる攻防が続いている。本稿執筆時点(2026年4月)では、2025年10月10日に発効した停戦が形式上は続く一方、局地的な空爆・銃撃で死傷者はなお発生し、人道支援は依然制約されている状態である。本作は、このガザ攻撃開始から3カ月後の2024年1月29日に、戦闘下で車内に閉じ込められ、攻撃の犠牲となった複数の遺体の横で救助を待ちながら、その短すぎる生涯を終えざるを得なかった6歳の女の子をめぐる実話である。
この悲劇を忘却の彼方に追いやらないために
どんなに現場が努力しても、救えない命がある。いや、救えない命ばかりである。救助隊の拠点から、ヒンドが閉じ込められた車両までの距離はごくわずか。それでもあまりに過酷な攻撃が収まらないなかで、救助隊は動き出せない。赤新月社のスタッフたちはボロボロと涙を流しながら、電話越しにヒンドに優しく語りかけ続ける。ヒンドも粘り強く助けを求めながら、自分の身に迫りくる死に向き合う。絶望という言葉では到底表現できない数時間が、無情に経過していく。
カウテール・ベン・ハニア監督はこの事件について振り返り、「私の心に重くのしかかったのは、出来事そのものの暴力性だけではなく、その後に訪れた沈黙でした」と語っている。まさにそうだ。悲惨な出来事が報じられれば、人々は「そういえば」とばかりに、自分の住む場所から遠い世界のどこかで悲惨な出来事が繰り返されていることを思い出す。しかし、時間が経過すればするほど、その記憶は遠くにかすんでいく。しかし、イスラエルのガザに対する攻撃は、決して起こるべきではなかった悲劇であると同時に、決して忘れられてはならない悲劇でもある。『ヒンド・ラジャブの声』は、この悲劇を都合よく忘却の彼方に追いやることなど一切許さないような強い衝撃を、私たちに突きつけ続ける。

