「腸活」という言葉がすっかり定着し、ビフィズス菌や乳酸菌入りのヨーグルトを毎日欠かさず食べている人は多い。善玉菌を増やして腸内環境を整え、がんや生活習慣病を予防する――そうした健康法は、今や広く信じられた「常識」だ。しかし内科医で『最新 欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学が示す、人種と病気の新常識』(講談社ブルーバックス)の著者である奥田昌子氏は、その前提に根本的な疑問を投げかける。(全2回の2回目/はじめから読む

【病気にも人種差「日本人の体質でみたがん予防」】日本と欧米「なりやすいがんの違い」|大腸がん・胃がん・膵臓がんに繋がる「日本人の体質」|品種改良した果物に要注意|欧米のデータに惑わされるな【奥田昌子】

(初出:「文藝春秋PLUS」2026年7月6日配信)

善玉菌は体の中に25兆個いる

 文藝春秋PLUSの動画番組「HEALTH CARE PLUS」で、奥田氏はプロバイオティクス食品の限界を率直に語った。

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「残念ながら、プロバイオティクス食品で腸内環境を変えるのは難しいと考えています」

 理由は数の問題だ。人の体内には平均して25兆個の善玉菌がいる。一方、1食分のヨーグルトに含まれる善玉菌の数は、その体内の菌と比べると「桁が4つほど違います」と奥田氏は言い切った。計算すると、0.08%にも満たない量だという。

 しかも、仮に生きた状態で腸に届いたとしても「通過菌」として2日から7日で体外に出てしまい、腸に住み着くことはない。「ですから、どんなに毎日食べても、菌が体内に蓄積することはありません」と奥田氏は語る。

今いる25兆個を元気にする発想を

 では、腸内環境を改善するには何をすべきか。奥田氏が繰り返し強調するのが「食物繊維」だ。

「食物繊維をしっかり摂れば、すでに体内にいる25兆個もの善玉菌が元気になり、さらに増える効果が期待できます」

奥田昌子氏

 食物繊維は善玉菌の餌になる。食の欧米化によって穀物の摂取が減り、食物繊維が不足すると、体内の善玉菌が弱り、相対的に悪玉菌が力を持つ。悪玉菌は脂質の消化を助ける「胆汁」を分解して、大腸がんの発生に関わる物質を生み出す可能性があるという。ここに「脂質摂取の増加」「食物繊維の減少」「運動不足」という食の欧米化の三要素が絡み合い、大腸がんの増加につながっていくとのことだ。

 興味深いのは、国際調査において日本人の善玉菌は37か国中最も多かったという事実だ。伝統的に食物繊維を多く摂ってきたからだと奥田氏は説明し、「最近は食物繊維が入ってこないので、少しお腹を空かせているのです」と、善玉菌を「子どもたち」にたとえて語った。その表現は、番組の場に温かみをもたらしつつも、現代の食生活への警鐘として聴く者の耳に残った。