「がん治療中は体力をつけるためにしっかり食べるべき」という典型的なアドバイスがあるが、それは必ずしも正しくないかもしれない。がん細胞は糖代謝に強く依存し、カロリー過多や乳製品・糖質の摂り過ぎで分泌される成長因子「IGF-1」を栄養にして増殖・悪性化を続けるからだ。

 そう指摘するのは、医師の浜口玲央氏だ。ここでは、同氏の著書『「がん寛解」の科学 この体内環境で予防・治療・再発防止する』(角川新書)より一部を抜粋。がん細胞を兵糧攻めにし、治療効果を最大限に高める「体内環境」の整え方について紹介する。

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「からだの環境を整える」という言葉の意味

 進行がんであっても経過が良好となる人たちに共通してみられる要素として、「土台であるからだの環境」を整えることの重要性がある。また、腫瘍微小環境の酸性化に着目したアルカリ化療法があるが、重要なのは、その本質が単なるpH操作ではなく、食事を中心とした生活習慣の変化を通じて体内環境全体を整える点にあるということである。アルカリ化食により、代謝や炎症、腸内環境が同時に是正されることは、その一例にすぎない。

 これらは、がん細胞を直接攻撃する治療ではない。しかし、治療の効果を引き出し、回復力を高め、がんが進展しにくい体内環境を整えるための基盤となる要素である。宿主側の環境を整えることは、標準治療と対立するものではなく、その効果を最大限に発揮させるための重要な土台となる。がんは遺伝子異常だけで説明できる病気ではなく、栄養や代謝、炎症、免疫、自律神経、エントロピー(腸内環境など)といった宿主側の状態と相互に影響し合いながら進行していく。

 では、「からだの環境を整える」とは、具体的に何を意味するのだろうか。栄養・代謝、炎症、免疫、自律神経、そしてエントロピーへの対応など、がんと深く関わるからだの環境要因は多岐にわたる。ここでは「栄養・代謝」を取り上げ、それがなぜ重要なのか、がんとどのように関わっているのかを解説する。

 がん細胞は、正常細胞とは異なる代謝性質を持つ「代謝性疾患」でもある。がん細胞は糖代謝に依存し、過剰なエネルギーと材料を取り込みながら増殖を続ける。その背景には、過剰なカロリー摂取、糖代謝の偏り、成長ホルモンの一種であるIGF–1シグナルの亢進があり、その結果、腫瘍微小環境の酸性化が形成される。

 栄養・代謝を見直すことは、がんにとって有利な代謝環境を是正し、治療が本来の力を発揮できる状態を整えるための最も基礎的な対処法である。