老化を遅らせ健康寿命が延びる効果が認められた調査
腹八分目が健康によいと聞いたことはないだろうか。アメリカでアカゲザルに対して行われた有名な研究がある〈1〉。
1.Mattison JA, Colman RJ, Beasley TM, Allison DB, Kemnitz JW, Roth GS, et al. Caloric restriction improves health and survival of rhesus monkeys. Nat Commun. 2017;8: 14063.
アカゲザルを自由に食事させたグループと食事量を70%に制限したグループに分けて調べたところ、食事量を制限したグループで加齢性疾患の発症が減少し、老化を遅らせ健康寿命が延びる効果が認められた。これはカロリーリストリクション(CR:Calorie Restriction)とも呼ばれ、遺伝的、生理学的に人間と近いアカゲザルの結果なので、人間でも同じような効果を期待できるだろうと話題になった。
ただし、今どれだけ食べているかということと、実際の食事の内容にも十分な注意が必要である。CRは、栄養失調を起こさない範囲で摂取カロリーを制限する食事法である。飽食の時代を生きる我々現代人の多くは、消費するカロリーよりも摂取するカロリーの方が余分であるため、カロリー制限にメリットがあると考えられるが、すでに適切な食事摂取量の場合は採血データも確認しながら慎重に行う必要がある。また、食事内容は極めて重要である。総カロリーだけの問題ではなく、食事から適切に抗炎症物質、抗酸化物質、食物繊維など十分な栄養素を摂取できる必要がある。
カロリーリストリクションの生物学的メカニズム
動物実験を中心にCRにより加齢性疾患が減ることが報告されているが、これには、がんや心疾患、糖尿病が含まれる。当然、肥満も減るので肥満関連疾患、メタボリックシンドロームの発症も減る。がんに関しては、カロリー制限が腫瘍の発生率を低下させ、治療の効果を高める可能性が示唆されている。CRによる抗がん作用は、下記のような多様な分子経路に関係している〈2〉〈3〉〈4〉。
2.Longo VD, Fontana L. Calorie restriction and cancer prevention: metabolic and molecular mechanisms. Trends in Pharmacological Sciences. 2010; 31(2): 89‒98.
3.Sergeeva E, Ruksha T, Fefelova Y. Effects of Obesity and Calorie Restriction on Cancer Development. International Journal of Molecular Sciences. 2023; 24.
4.Hursting SD, Dunlap SM, Ford NA, Hursting MJ, Lashinger LM. Calorie restriction and cancer prevention: a mechanistic perspective. Cancer & Metabolism. 2013; 1: 10.
(1)がん細胞を成長させる因子として重要なIGF–1(Insulin-like growth factor 1:インスリン様成長因子1)やインスリンを低下させることにより、細胞増殖が抑制される(IGF–1については、後の項でも説明する)
(2)炎症性サイトカインの減少と酸化ストレスの軽減
(3)細胞の成長、生存、アポトーシスを制御する主要なシグナル伝達経路(AMPK、mTOR、MAPK、p53、JAK–STATなど)の調整
(4)オートファジー(細胞が自らの中にある不要なタンパク質や壊れた細胞小器官を分解・リサイクルする仕組み、自食作用)や抗腫瘍免疫の活性化