栄養・代謝を見直す意義

 このように、糖代謝やIGF–1/インスリンシグナルの活性化は、がん細胞の増殖を直接促すだけでなく、腫瘍を取り巻く環境そのものを変化させる。特に重要なのが、腫瘍微小環境のpHである。

 がん細胞は酸素が十分に存在していても解糖系に強く依存する代謝様式をとり、その結果として乳酸などの酸性代謝産物を大量に産生する。これらは細胞外へ排出され、腫瘍周囲は慢性的に酸性へと傾いていく。一方で、がん細胞自身の細胞内pHはアルカリ性に保たれており、このpHの非対称性こそが、がん細胞の生存や浸潤を支える重要な特徴となっている。

 この酸性環境は、がん細胞にとっては有利に働くが、宿主側にとっては不利な条件となる。免疫細胞、特にT細胞やNK細胞は酸性環境下では機能が低下し、抗腫瘍免疫が十分に働かなくなる。また、酸性環境は抗がん剤の細胞内移行を妨げ、治療抵抗性の一因ともなることが知られている。すなわち、糖代謝やIGF–1の亢進は、代謝の問題にとどまらず、「がんが生きやすく、治療が効きにくい環境」をつくり出しているのである。

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 栄養・代謝を見直す意義は、血糖値や体重を管理することだけではない。過剰なカロリー摂取や糖代謝の偏りを是正し、IGF–1シグナルを抑えることは、腫瘍微小環境の酸性化を緩和し、免疫や治療が本来の力を発揮できる土台を整えることにつながる。pHは、その結果として現れる「からだの環境」の一つの指標と捉えることができる。

 このように、栄養・代謝の問題は、がん細胞の内部だけで完結する話ではなく、炎症、免疫といった他の要素とも密接に結びついている。

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