同じがん、同じステージ、同じ治療を受けても、驚くほど回復する人と急速に悪化する人がいる。その違いは一体どこにあるのか? 約20年呼吸器内科医としてがん患者を診てきた浜口玲央氏は「がんを取り巻く『体内環境』の違いが治療効果を左右する」と指摘する。
ここでは、同氏の著書『「がん寛解」の科学 この体内環境で予防・治療・再発防止する』(角川新書)の一部を抜粋、再編集。ステージⅣの肺がんでも長期生存を可能にする体内環境の不思議について紹介する。
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同じがんの種類、同じステージ、同じ治療を受けているにもかかわらず、患者さんによって驚くほど違う経過をたどる場合がある。初期のがんで、手術で取り切れるものならばよいが、そうではない他の臓器へ転移したような進行がんの場合、その人の治療に対する反応性の違いがそのまま治療結果を反映することとなる。
みなさんの周りでも、進行がんなのに奇跡的によくなった人の話やそのまた逆の話を聞いたことがあるだろう。医学統計はあくまで平均値を示しており、多くの方が平均的な経過を示す中で、実際の臨床現場では様々な経過を示す人がいる。ある人は治療がよく効き長期間安定する一方、別の人では進行が速く、治療効果にも限界が見られる。では、この違いはどこから生じるのだろうか。
がんの進行や治療効果を左右する要因は、がん細胞そのものの性質だけではない。がん細胞を取り巻く周囲環境も重要な要素である。からだの中で起こっている慢性炎症の有無や免疫、代謝、自律神経、腸内環境といった「体内環境」の違いが、がんの勢いを大きく変えていることが明らかになってきた。また、薬を代謝する能力や免疫の反応性にも個人差があり、治療効果の差を生み出す要因となる。
ここでは、「同じがん治療なのに差が出る理由」について、がんの代謝的性質に注目して整理する。
臨床現場で感じた「治療反応性の差」
進行期の非小細胞肺がんを例にして私の経験を説明したい。
肺がんには非小細胞肺がんと小細胞肺がんがあり、頻度が多く一般的なのは前者である。私が呼吸器内科医に成り立ての約20年前(2006年)は、他の臓器へ転移した進行期の非小細胞肺がんの生存期間中央値(半分の方が亡くなるまでの期間)はおよそ8~12ヶ月だった。何も治療しなければおよそ4~6ヶ月で、抗がん剤を行うことで得られる効果は数ヶ月程度の延命であった(現在は治療の選択肢も増え、治療効果はずっと良くなっている)。少しでも高い効果が得られるようにと、抗がん剤の副作用管理をしっかり行い、治療効果が高くなると信じられていた適切なスケジュール管理のもと治療を行っていたが、期待する以上の効果を認められる患者さんは少なかった。
