2025年6月、「僕の前立腺がんレポート」を連載中に亡くなった長田昭二さん。今回は、ランニングを趣味としてきた長田さんが、がん治療の過程で起きた「走る能力」の低下を明かした第3回から一部を紹介します。

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体重激増で、顔はアンパンマンに

 転移が見つかったのが初夏で、その後前立腺全摘手術を終えて退院したころは東京五輪が真っ盛り。いつも練習で走っている神宮外苑は大変な騒ぎになっていた。ましてコロナ禍の真っ最中。様々な条件が重なって、ランニングから遠ざかるようになってしまっていたのだ。

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Qちゃん(高橋尚子さん)の指導を受けて始めたマラソンだが……(筆者提供)

 ホルモン治療は体重が増えやすい。そこに運動不足が加わったこともあり、それまで68~72キロだった体重は、ものの数カ月で84キロまで増えてしまった。顔も真ん丸に膨らんで、かつてはちょっとした男前だったのに、いまではアンパンマンにそっくりだ。

 体重が増えると走るのがつらくなるからなおのこと走らなくなる。まさに「負のスパイラル」だ。走らなくなって3~4カ月が経ったころ、ふと思い立ってランニングウエアを着てみたところ、ランニング用のロングタイツは伸縮性があるのでどうにか穿けるのだが、パンツはファスナーが上がらなくなっていた。シャツは肌にぴったりと密着して乳首がくっきりと浮き上がる。姿見に映し出されたのは、数カ月前までの姿を想像することもできない不思議な生物だった。

「ジュゴン」がランニングウエアを着たらきっとこんな感じになるんだろうな……と思ったりした。

餌を食べるジュゴン ©アフロ

 すっかりマラソンとは縁遠くなった僕だが、それでもランニング仲間とは連絡を取り合っていた。今年2月、久しぶりに集まった際に、何となく僕の病状について話したところ、「短い距離なら走れるだろう?」という話になり、5月に国立競技場で開催されるリレーマラソン大会にみんなで参加することになった。僕にとっては2年ぶりの大会だ。

 リレーマラソンとは、登録したメンバーがフルマラソンの距離をタスキをつないで走る大会のこと。この大会は競技場内のトラックと観客席下の通路をつないだ周回路をぐるぐる走るだけなので、一度走ったランナーがタスキを渡した後休憩して、また走ることもできる。タスキだけが42.195キロを移動すればいいのだ。

採血を受ける筆者 ©文藝春秋

 1周回が1.4キロのコースを30周するこの大会に、僕を含めて9人のチームでエントリーした。そのうち2人はマネージャー、1人は仕事の都合で不参加となり、6人のランナーでタスキをつなぐことになった。

 僕以外の5人はいまも各地の大会で活躍している現役の市民ランナーだ。そんなアスリートたちの中に引退同然のジュゴンが混ざっていいものか……と悩んでいたのだが、揃いのシャツまで作られて、もはや逃げることはできなくなった。