一方、私のクリニックでは、この本のテーマでもある「からだの環境」を評価し整えるための補助治療を行っているが、分子標的薬が適応となるステージⅣの非小細胞肺がんの患者さんの3年生存率は76.9%であった。

 これは、「第11回 日本がんと炎症・代謝研究会」で報告したものについて、2026年3月31日時点のデータに更新したものだ。2023年1月1日から1年の間に私が院長を務める水道橋内科クリニックを受診した非小細胞肺がんの患者さんは37名だったが、そのうち、ステージⅣの患者さんは26名だった。セカンドオピニオンなどで1~2回のみの受診の方を除くと21名となり、その中で遺伝子変異を有し分子標的薬を使うことができた患者さんは13名だった。この13名の方について、診断時からの生存期間が3年(36ヶ月)を超えている方は10名であり、3年生存率は76.9%となる(図表2–1)。

 

 グラフは縦軸が評価時点での生存期間(月)、横軸はそれぞれの患者さんを示しており、単色のグラフは生存、斜線のグラフは死亡を表している。7、8の方は、評価時点で3年が経過していないため、さらに生存期間が延長する可能性が高い。しかし、残念ながら5名の患者さんはすでに亡くなられている。今回、ここで紹介したデータは少数のものであり、慎重に判断する必要があるが、先に紹介した既報告の3年生存率23.2~44%より良好と言える。

ADVERTISEMENT

 同じような分子標的薬治療を受けている患者さんであっても、治療効果、すなわち、生存期間に大きな差が生じているのである。このような差を引き起こす原因を説明するものとして、次節でがんの代謝的性質について説明する。

がんの代謝的性質

 同じがんなのに治療経過が異なり、がんの勢いに違いがみられるのは、単に遺伝子変異の違いだけで説明できる現象ではない。

 がん細胞は正常細胞とは異なる代謝様式を持ち、エネルギーの使い方そのものを変化させ、免疫から逃れて細胞増殖し、体内で生存するための仕組みを持っている。これは、がん細胞単独で完結しているわけではなく、体内環境の影響を強く受けており、これが、がん細胞の増殖・浸潤・治療抵抗性と密接に関わってくる。ここでは、がんの代謝的性質に焦点を絞って説明する。