プロ未勝利の投手が完全試合。それも、相手はジャイアンツ――。2023年4月、東京ドームでNPB史上初の快挙が成し遂げられようとしていた。阪神タイガースの先発としてマウンドに立ったのは村上頌樹。7回までパーフェクトピッチを続けていたが、当時の監督・岡田彰布は村上を交代させる決断を下した。
大ブーイングに包まれる東京ドームだったが、岡田はあくまで無表情を貫き続け、結果としてその試合には勝利。この時、岡田はどのような理由で“非情な決断”をしたのか。デイリースポーツで長らく「岡田番」を務めた西岡誠氏による新著『7657日の孤独 岡田彰布は阪神タイガースに何を遺したのか』から抜粋してお届けする。
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「NPB史上初の快挙」が目前だったが……
2023年の阪神は、レギュラーシーズン143試合の中でターニングポイントと言える試合がいくつもあった。
球団記録を更新する月間19勝を挙げた5月の9連勝。ロッテ・佐々木朗希にシーズン初黒星をつけた6月4日の一戦。9月8日からの2位・広島との直接対決3連戦3連勝。成長を感じさせる試合は多々あった。
くすぶっていた右腕が大ブレークへのきっかけをつかんだ試合も、その1つだろう。4月12日、東京ドームでの巨人戦。2年ぶりの1軍登板で、シーズン初の先発マウンドに上がった村上頌樹は軽快にアウトを重ねていた。
140キロ台中盤ながらキレのあるストレート、そして緩急自在の多彩な変化球をコーナーに投げ分け、初回から巨人打線を寄せ付けなかった。7回まで、ヒットはおろか四死球もエラーによる出塁もないパーフェクトピッチングだった。少しずつ、だが確実に、球場のムードを変えていった。
スコアは1対0で阪神がリード。勝利まで「あとアウト6つ」まで迫っていた。球数は84球。先発投手の降板のメドが100球とされる現代野球でも、まだ余裕がある。ここまでプロ未勝利で、このシーズンも開幕ローテからも外れていた大卒3年目右腕は、大記録を視界に捉え始めていた。
阪神の長い歴史の中で、完全試合を達成した投手はいない。それどころか、達成すれば、「プロ初勝利が完全試合」はNPB史上初の快挙でもあった。1アウトを取るごとに、グラウンドやベンチの緊張感は増し、スタンドのざわめきは大きくなっていた。
