稚魚に育つのは0.5%
なぜ完全養殖は高いのか。山田水産の完全養殖ラボを取材した。同社は業界トップクラスの養鰻業者で、年450万尾を出荷。養殖から加工、販売までを手がける、業界では珍しい存在だ。
完全養殖ラボは、鹿児島県・志布志湾の湾口にある。住所は非公開だ。以前、ヒラメの養殖場だった所を地元の漁業関係者から借りている。
「完全養殖チーム」の松尾周悟リーダーが立地について説明する。
「完全養殖うなぎは汲み上げた海水で育てます。ここは湾の入り口なので、海水の塩分濃度が一定なんです。湾の奥だと川があって、ちょっとした雨でも塩分濃度が下がってしまう」
建屋の一室に入ると、クリーム色のプラスチック製水槽が並ぶ。覗き込んでも、ほとんど何も見えない。レプトケファルスは透明で目だけが黒い。光を嫌い、明るいと水槽の底や壁に体を擦りつけて弱るため、暗くして飼うのだという。
一つの水槽に放つ仔魚は約2万匹。いま残っているのは1000匹から2000匹弱。入れてから9割が死んだ計算だ。卵の段階から数えれば、シラスウナギまで育つのは0.5%にすぎない。1日5回餌を与え、水槽は毎日入れ替えて洗う。水温は23度から25度に保つ必要がある。海水は循環させずに掛け流しだ。こんなに手間暇をかけ、約250日育ててシラスウナギになるのだ。
水槽は水研がヤンマーと共同開発したものを使う。逆蒲鉾型の水槽が二つ一組になっている。
「餌がどろっとした液状なので、水がすぐ汚れ、バイオフィルムという微生物の膜が張ってしまう。これがうなぎに良くない。だから二つの水槽を交互に使って、こまめに洗浄するんです」
清潔な海水の供給を支えるのが、毎分2トンを汲み上げるポンプと、砂で濾す巨大な濾過槽4基だ。ラボの立ち上げ当時は、ボウル型水槽が10個並ぶだけだった。将来の規模拡大を見据えてのこととはいえ、あまりに不釣り合いな投資だった。
「水研の人が見に来て、笑っていました。ボウル水槽10個のために、なんでこんなものを、と。でも、それで覚悟を示したわけです」
この投資には、技術的な理由があった。うなぎが産卵するのは、外洋の極めて清浄な海だ。繊細な仔魚を育てるには、その水質に少しでも近づけるべきだと考えたのだ。
※本記事の全文(約6500字)は、月刊「文藝春秋」9月号と、月刊文藝春秋の電子版「文藝春秋PLUS」に掲載されています(本誌編集部「完全養殖うなぎの光と影」)。 全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・餌はアブラツノザメの卵
・完全養殖うなぎの味は?
出典元
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作全文掲載 小砂川チト「ゾンビ回収婦」/「高市総理よ、日本を壊すな」細川護熙/がん15部位 早期発見ガイド
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