舛岡氏のエピソードは東芝という巨大企業におけるエンジニアの地位の低さを象徴している。東京電力など電力各社に原子力発電機やガスタービンを納め、NTTなどに通信機器を納入する東芝の社風は「国策企業」であり、業績の浮き沈みの激しい半導体事業はどんなに利益を稼いでも「新興事業」と扱われた。
久保氏は1980年代の後半、経理担当として東芝アメリカ電子部品社(TAEC)に出向していた。当時、米国では設計に特化した「ファブレス」の半導体会社が生まれ始め、台湾ではテキサス インスツルメンツ(TI)出身のモリス・チャン氏が、それらのファブレスから生産を受託する「ファウンドリー」のTSMCを立ち上げて話題になっていた。設計と生産を分けて業務の効率を高める「水平分業」のはしりである。
東芝の致命的なミス
このとき久保氏はTAECの経営陣がTSMCを「せんべい焼き」と呼んで馬鹿にしていたことを鮮明に記憶している。
「とにかく『IDM(開発・設計から製造、販売までの全工程を1社で一貫して行うビジネスモデル)が一番凄いんだ』の一点張りで、新しい業態であるファブレスやファウンドリーを一顧だにしなかった」(久保氏)
水平分業の代名詞であるエヌビディアとTSMCを見れば、この時の東芝の判断が致命的なミスであったことが分かる。
自分たちで稼いだ利益を開発や設備投資に回せず、市場からコングロマリット・ディスカウント(事業が多すぎて株式市場から低く評価される状態)をくらっていた「東芝時代」を思えば、今のキオクシアは自由である。
※この続きでは、キオクシアの現状に元東芝CFOの久保誠氏が苦言を呈しています。約7300字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と、『文藝春秋』2026年9月号に掲載されています(大西康之「キオクシア敗戦 東芝元CFOの告白」)。
出典元
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作全文掲載 小砂川チト「ゾンビ回収婦」/「高市総理よ、日本を壊すな」細川護熙/がん15部位 早期発見ガイド
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