「映画化する必要なんて感じていなかった」

「最初に届いたのは、『The Backrooms』をグラフィックノベルにできるかもしれない、という話でした。そのあと映画化の話も持ち上がりましたが、僕の反応は懐疑的で、悲観的だったと思います」

 そもそもパーソンズは、「自分はYouTubeで作品を発表しているだけでじゅうぶん満足していた」という。「だから、映画化する必要なんて感じていなかった」と。

ケイン・パーソンズ監督

「だって、そういう企画はうまくいかないことが多いから。ビデオゲームや、ハリウッドの外で生まれた企画が長編映画になるときには、プロデューサーやスタジオ、脚本家が加わります。だけど、彼らはその作品に同じ時間を費やしたわけでも、同じ思い入れを持っているわけでもないかもしれない。この考え方は間違っていないと、今でも思います」

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 それほど失敗の可能性を警戒していたパーソンズが、それでも映画化に踏み切ったのは、「YouTubeで取り組んできたことを踏まえ、本当に作るべき映画を思いついたから」だったという。

 映画『バックルームズ』では、家具店を営むクラークが店の地下から異空間へ迷い込み、セラピストのメアリーも、失踪した彼を追ってバックルームズへと足を踏み入れる。主演にはキウェテル・イジョフォー、レナーテ・レインスヴェという名優ふたりを迎えた。

映画『バックルームズ』

「ハリウッド映画の監督になりたいとは思っていなかった」

 A24のもとで映画化が動き出したことで、まだ10代の少年だったパーソンズは、見知らぬハリウッドの環境に飛び込み、映画『バックルームズ』の創作の中心に立った。それまで個人で育ててきた世界を、大勢のキャストやスタッフと初めて共有したのだ。

 ところで、YouTubeに作品を投稿しはじめたとき、自らの夢や人生設計に「映画監督になること」はあらかじめ含まれていたのだろうか?

 そう尋ねると、パーソンズは「そう思います。ただ、『ハリウッド映画の監督になりたい』とは思っていなかったですね」と答えた。

「YouTubeや、オンラインでの映像制作のなかで育ってきた僕には、『フィルム』という言葉さえ少し古めかしく感じられます。僕の作品はすべてデジタルで、しかも多くはアニメーションなので、現実のものを撮ってすらいないから」

ケイン・パーソンズ監督

 本当に心ひかれていたのは「映画」ではなく、メディアとテクノロジーによってストーリーを語ることや、丁寧に積み重ねてきた調査と思考を表現することだったという。

「ゲームやテレビ、ウェブシリーズ、そして映画など、どんな形式でもいいんです。だから、自分を『映画監督』と呼ぶかどうかはその時々で変わってきました。ただ、何らかの体験をキュレーションするようなことをしたいと常に思っていたんです」