1カ月間の「動画断ち」治療の効果
ポルノ依存症になった人は、必ずしも幸福度が低下するわけではないらしい。それで心が満たされてしまえば、むしろ幸福度は上昇する。だからこそ、ますますポルノからの離別が困難になる。
こういう若い人たちに対して何ができるのか。今井は言う。
「AI時代には、AIがその人の好みに合ったポルノを勧めてくるので、接するポルノが偏ったものになりがちです。そうなると、特定のデジタル画像にしか脳内報酬系が働かなくなってしまう。
それを防ぐには、若い人たちに様々な素材を使ってマスターベーションをすることを勧める必要があると思っています。私はこれを医療や性教育の場で『おかずローテーション』と呼んで話をしています。
そもそも人にとってマスターベーションは必ずしも不健全なものではありません。正しく行えば、性のことを知り、自分をコントロールし、健康なセックスができるようになる。だから、刺激の強いポルノだけに偏ることなく、イマジネーションも含めていろんなものを題材にしてマスターベーションをしていくべきだということを教えているんです。
これができるようになれば、人は特定の情報だけに偏らずに済むし、ポルノのフィクション性も理解するようになります。AIの時代だからこそ、性の情報もバランスが必要だと思っているのです」
病院に訪れる深刻な症状の患者には、若年性EDの治療として、1カ月間の「動画断ち」治療を行っているという。
アダルトコンテンツにおけるAIの活用が、ポルノのフィルターバブルを引き起こしているのであれば、意図的にそこから距離を置かせるというのは理にかなっている。動画をやめてしばらく経つと、「塩おにぎりでも美味しく感じられる」ように脳の感度が回復し、若い人ほど高い確率で改善するそうだ。
ポルノ依存症は、薬物依存やギャンブル依存とは異なり、後遺症など不可逆的なダメージが残るわけではなく、適切なアプローチで十分に回復可能なものだ。性に関する習慣を変えるだけで数カ月のうちに元に戻る。
ただ、それは本人がポルノ依存の実害を認識し、危機感を抱き、回復を目指してこそのことだ。こと10代の若者に限って言えば、そこにまで至るケースは極めてまれだと考えられる。
そうしてみると、人々の性意識や性行動は、特に10代の若者の間で、身体レベルで変容しつつあるのかもしれない。しかも、大半の人が無自覚のところでだ。
AI時代に私たちの社会が直面しているのは、そんな性をめぐる現実なのである。
INFORMATION
本連載では、「若者社会におけるAIの光と影」をテーマに取材を進めています。その中で「AIによるショート動画などのAIスロップの大量生産に詳しい方」「推し活アプリやAIパートナーへの課金に悩まれている方」「AI教育・AI保育の課題に詳しい方(教育・保育者含む)」を探しています。
取材に協力していただける方は、簡単なプロフィールと提供いただける情報を明記の上、著者・石井光太氏のホームページから連絡下さい。


