会社員の片思いを描いた前作『あなたの四月を知らないから』でデビューを果たした青山ヱリさん。この度、初長編『その名前をいつか』を上梓した。
「長編の依頼をいただいて書こうと思ったのが、第3部の冒頭、2人の女性と小さな子どもが楽しそうにご飯を食べている風景でした。いざ書こうとするととても長くなってしまうのでずっと寝かせていたイメージだったんですが、どうして彼女たちは一緒に暮らしているのか、どんな関係なのか、自分でも見てみたくなって今回挑戦しました」
主人公・藤原六花(りっか)と舘村曜(たちむらよう)という2人の女性の20年間を描いた3部構成の本書。第1部の六花は15歳の中学3年生だ。たった1年ですっかり仲良くなった転校生の曜は、笑いのツボもノリもよく似ていて、一緒にいて楽しい相手。自然と、初めてできた彼氏の矢野よりも、他の誰よりも大切な存在になっていく。
「第1部は中学生の世界ってどんな感じだったかな、と一生懸命思い出しながら書きました。六花と曜だけを書いていると閉じた世界になってしまうし、曜のことが大切だとしても、24時間365日ずっと『好き』なわけじゃない。時には男の子と付き合うこともあっただろうなと思います」
ところが、2人の別れは突然やってきた。曜が転校することになったのだ。曜に言われた「いちばん大事な友達」という言葉を胸に、六花はその後もネット上でやり取りを続けるが、それも20歳で途切れてしまう。そして物語は、コロナ禍の東京でデザイナーとして働く30歳の六花を描く第2部に移る。大阪生まれでお笑い好きの青山さんの手にかかると、何気ない職場の会話の言葉選び一つ一つさえも不思議な魅力を纏う。
「生活の半分以上はお仕事なので、お仕事の場面もしっかり書きたいと思いました。職場の人達は書いていて楽しかったですね」
転機は不意にやってきた。偶然ネット上で見つけた曜らしきアカウントにメッセージを送り、15年ぶりに会うことに。しかし、待望の再会を果たした曜は、昔の姿と大きく変わっていた。
「かつてキラキラして見えた曜なのに、久しぶりに再会すると『あれ、こんな人だったかな』と気付く。そんな印象のズレを乗り越えてもう一度好きになる様子を書きたかったんです」
物語の中では、コロナ禍での出産が描かれる。「医療がひっ迫して健診の予約が取れない」「緊急事態宣言で首都高がガラガラ」など、当時の東京の空気が緻密に表現されている。
「当時の資料も読み込みましたし、20年ぐらいつけている日記を読み返しました。あと、実際にコロナ禍で出産した友達から話を聞いたりもしました」
そこから5年後を描く第3部では、六花と曜、そして禰音(ねおん)という小さな女の子の3人が幸せそうに食卓を囲んでいる。執筆のスタート地点の景色そのものだ。
「私にとっての小説というのは、何かを代弁させるツールではなく、いつの時代も変わらない心情に対するアプローチを描くものなんです。今回は、人を好きになるってどういう現象なのか考えてみたかった。気持ちをわかりやすく表現できない環境や関係でも人を好きでいられるのか、その気持ちはどういう形で表れて、2人の関係はどうなるのか、『好き』という気持ちへのアプローチを追いました」
最後に、次回作の題材について伺った。
「2作続けて片思いに向き合う話を書いたので、今度は男女のハッピーな両思いの話を書きたいですね(笑)」
あおやまえり/1985年、大阪府生まれ。創作大賞2024(note主催)にて朝日新聞出版賞を受賞。『あなたの4月を知らないから』で単行本デビュー。

