北方謙三、伊集院静との抱擁

 14年、直木賞の選考委員に就任。選考会の場では阿刀田高氏や伊集院静氏ら先輩作家と対峙しても、堂々たる論陣を張った。

「若いながらも、作中のトリックや科学描写について、『これは自然の法則としてあり得ない』と的確にアドバイス。『ミステリーのことは東野さんに聞こう』とみんなが一目置いていました」(前出・林氏)

 桐野氏もこう振り返る。

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「東野さんから選評が始まると、いきなり『×』を付けて驚かされたこともあった一方、他の委員の反対をものともせず、1人だけ『◎』を付けたことも。ユニークな視点をお持ちで、作家として自分の足できちんと立っている姿勢が素晴らしかった」

 選考会後は銀座の文壇クラブでの打ち上げが恒例だった。最後となった19年の様子を桐野氏が振り返る。

「お辞めになることをみなさんすごく惜しまれていました。先輩作家である北方謙三さんや伊集院静さんが、東野さんと抱き合ってお別れを告げていたのが印象的でした」

 冒頭のように、選考委員を退任する際、「作品を書かなきゃいけないんです」と語った東野さん。言葉通り、その後も数多くの著作を発表した。23年に100冊目の作品『魔女と過ごした七日間』(KADOKAWA)を刊行し、翌年には日本ミステリー文学大賞を受賞した。死去の13日後には「ガリレオ」シリーズの新作『永遠の記憶』(文藝春秋)の発売も控えていた。大腸がんと闘いながら、最期まで創作意欲を失うことはなかったのだ。

「書かなきゃいけない」という強い使命感

 前出の林氏は、冒頭の東野さんの発言を反芻する。

「訃報を聞いて真っ先に思い出したのは、『書かなきゃいけない』という強い使命感です。数々のベストセラーを生み出してもなお、飽くことなく書き続けた。そして、生涯をかけてミステリーというジャンルを文学の域にまで昇華させました。東野さんの現代文学における功績に、心から敬意を表します」

 かつて、「担当編集者も待っているし、休ませてもらえない(笑)」と語っていた東野さん。泉下でも筆を握り、“永遠の記憶”を刻み続けることだろう。

永遠の記憶

東野 圭吾

文藝春秋

2026年8月5日 発売

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