大塚明夫が語る『攻殻機動隊』の「好きなシーン」とは?

――大塚さんは『攻殻機動隊』でお好きなシーンの1つに、バトーが素子をデートに誘うけれど、けんもほろろに断られるシーンを挙げています。素子はバトーの気持ちを分かっているという感じで演じられているんですか。

大塚 分かってます、分かってます。だってバトーは、尻尾がちぎれそうになるくらい振ってるじゃないですか(笑)。それを素子が蝶々のようにひらりとかわしているのがいい。バトーもまた、そうした関係を楽しんでいるんだと思います。最初からがっぷり四つじゃ、あとは離れるだけ。恋愛になっちゃうと、もうそこで物語は終わっちゃうので。

――その辺の機微は、作品の魅力でもありますね。

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大塚 また、あっちゃんがそういう人だったんですよ。あの人が仕事を始めた頃って、音響監督がみんな恋をしてましたね。だから、すぐにいい役で呼ばれるんです(笑)。でも、だからといって、あっちゃんはそれを売り物にはしなかった。下品なことをしないというのが、彼女にとって生きる上で大事な部分の1つだったんじゃないですかね。貴族であるべし、みたいな。

©三宅史郎/文藝春秋

――押井守監督は『イノセンス』について、バトーの恋の物語だと話していますし、やっぱり恋愛なんですね。

大塚 でも、素子の恋の物語ではないんですよ。

――追えば去ってしまい、最後に少しだけ現れて、また消えていきます(笑)。

大塚 貴族の方が下々の者の前にすっと出てきたら、それだけでこちらも背筋が伸びるじゃないですか。そういう目に見えないものを、あっちゃんは持っていた気がしますね。

今でも忘れられない、田中敦子の「最後の舞台挨拶」

――2023年11月、劇場で行われた『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』の舞台挨拶の最後、田中さんは「どうか忘れないでください。皆さんがネットにアクセスする時、『攻殻機動隊』にアクセスする時、私はいつまでも皆さんのそばにいます」と、涙を浮かべて挨拶しました。その後、闘病生活の末、翌年の2024年8月20日に亡くなります。あの舞台挨拶の際、体調が悪いことはお聞きになっていたんですか。

大塚 体調が悪いことは、もう承知していました。あっちゃんのせがれでね、賢プロにいる田中光という声優がいるんですけど、その舞台挨拶の日、僕に聞いてきたんですよ。「明夫さん、親孝行って何ですかね?」って。

 そして、その日、光が一生懸命あっちゃんの映像を撮っているんです。それで舞台の上で、あっちゃんが「忘れないでください」って泣いたじゃないですか。「ああ、これであっちゃんは死んじゃうんだな」と察して。どうやってそれをお客さんに見せないようにするかで、大変でした。