「すごい人だったねぇ。遺体が発見された時には、墓地が閉鎖されていて、私の家の2階から取材陣が写真を撮ったり、ビデオを回したりしたんだよ」

 昭和38年、日本中を震撼させた「吉展ちゃん誘拐殺人事件」――円通寺の近隣住民が明かした、土足で家に踏み込むマスコミの狂騒とは? ノンフィクション作家の八木澤高明氏の文庫新刊『殺め家』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目)

写真はイメージ ©getty

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吉展ちゃん誘拐殺人事件

 雑居ビルや古びた住宅が建ち並ぶ町の一角にその公園はあった。親に見守られ遊ぶ子どもたち、どこの公園でも見かけるありふれた日常の姿である。ただこの公園は、子どもたちと同じくらい、浮浪者の姿が目についた。

 かつて日雇い労働者の街として知られた山谷からもそう遠くない土地柄だろうか、それにしてもその光景は私には奇異に思えた。砂場やブランコで遊ぶ子どもたちのすぐ横のベンチでは、初老の浮浪者がベンチに腰掛け、首をだらんと下げ眠っていた。

 本田靖春の名著『誘拐』の中に入谷南公園の様子を描写する件があるが、公園の様子は吉展ちゃんが連れ去られた当時をそのまま写し出しているようにすら思えた。

 吉展ちゃんにとって浮浪者は見慣れた存在だったからこそ、小原保(当時30歳)という自分の命を奪うことになる男の誘いに何の疑いもなくついて行ってしまったのではないか。