富豪の家から、高級腕時計30本と古書が盗まれた。事件を任されるのは、警視庁にただ一人の特別対策捜査官・二階堂悠真(にかいどう・ゆうま。

 10月6日に文春文庫で刊行された、堂場瞬一さんの新たな警察小説〈セレブ・ケース〉第1作『闇をわたる』。お金があるからこそ起きるトラブル――そんな「金持ちが絡む事件」を扱う異色の刑事は、どうして生まれたのか。堂場さんに、新シリーズ誕生の舞台裏を聞いた。(全2回の第1回)

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堂場瞬一さん ©文藝春秋

日本で「金持ちと探偵」をやるには?

――〈セレブ・ケース〉の着想は、どこから生まれたのでしょうか。

堂場 着想自体はずっと昔からあったと思います。僕の作家としてのベースは、ハードボイルドなんですね。

 アメリカの西海岸のお金持ちが探偵ともめる、みたいな話が大好きなんです。でも、その設定を日本にそのまま持ってくるとリアリティがない。

 ハードボイルドって、すごい金持ちで嫌な依頼人が探偵のところを訪ねてきて、「娘がいなくなった」とか「奥さんが消えてしまった」とか、そういうところから始まるケースがすごく多いんです。

 僕もそれを書きたかった。でも、日本でそういう設定は無理があるなと思って、ずっともやもや考えていたんですよね。

――それが〈セレブ・ケース〉につながった。

堂場 この作品は最初は書籍ではなくて、Amazonのオーディブルが先行した珍しいケースなんです。

「オーディブル・ファーストでやりませんか」と文春さんから話をいただいたとき、その日のうちに「こういうセレブネタでいきます」と話しました。

 読むのではなく、聞くところから入るわけですから、引っかかりやすい、分かりやすい話でやってみようかという気持ちもあって。

 金持ちの話はみんな好きなので、ここでいよいよ出すか、と。

「いたら嫌だけど、不思議ではない」

――ただ、その設定を日本でやろうとすると、探偵では難しかった。

堂場 アメリカのハードボイルドの設定を、日本にそのまま持ってくるとリアリティがない。

 それで、日本でやるにはどうするかとずっと考えていたんですが、オーディブルの話が来たときに、ぱっとつながった。

「お金持ちとか有名人に対応したり忖度する警察官がいても不思議ではないな」と。

 本当にいたら嫌だけど(笑)、でも、いても不思議ではない。そこから始まった話なんですよね。

『闇をわたる セレブ・ケース1』(文春文庫、10月6日発売)

――主人公の二階堂悠真は、具体的にはどんな役割なのでしょう。

堂場 二階堂って、「受け皿」なんですよ。

 お金持ちやセレブが絡んだ事件を彼が受けて、自分で操作するか、他の人に回すか。そういう窓口なんです。

 彼が積極的に事件を探しにいくわけじゃない。常に、何か来たものを受けるタイプですね。

――金持ちだからといって、特別扱いするわけではない。

堂場 普通に話してますよね。

 気を遣っているだけじゃなくて、言うべきことは言う。そこは筋が通ったタイプにしたいと思っています。

――二階堂自身も、裕福な家の出身です。

堂場 子どもの頃から、そういう世界のことは肌感覚で分かっていたんじゃないかと思います。

 お金持ちの家で、家業を継げば何の問題もないはずだったのに、途中でちょっと人生がねじれてしまって、なぜか刑事をやっている。

 そういう人なので、かなり変な人だということはご理解いただけるんじゃないかと。