手足や顔が黒く変色し、血の混じった泡を吐いて“自らの体液で溺れる”ように息絶える——。20世紀初頭、世界人口の3分の1にあたる5億人が感染し、5000万人から1億人の命を奪った人類史上最悪のパンデミックでは、体力のある若者ばかりが狙い撃ちされ、その遺体は黒ずんだ。いったいなぜか。人気YouTuber鈴木悠介氏による『R18世界史』(扶桑社)の一部抜粋して紹介する。
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スペイン風邪 百年前のパンデミック
1918年の秋。朝、「ちょっと風邪気味で」と笑っていた健康な20代の若者が、夕方には急変して病院に運ばれ、手足や顔が真っ黒に変色し、自らの体液で溺れる血の混じった泡を吐いて溺れるように息絶える。これは約百年前に世界を襲った人類史上最悪のパンデミック「スペイン風邪」の記録です。
当時の世界人口の3分の1にあたる5億人が感染し、少なくとも5000万人から1億人もの命を奪いました。なぜ高齢者だけでなく最強の体力を持つ若者も狙い撃ちされ、その死体は黒く変色したのでしょうか。百年前の地獄の教訓を紐解いていきましょう。
肺が溶け、自らの体液で溺れる
スペイン風邪は「タチの悪い風邪」ではありませんでした。40度近い高熱が出た後、ウイルスが肺の奥深くまで侵入して組織を破壊しはじめます。激しい咳と共に鼻や耳、目など全身から出血し、女性は不正出血が起きることもありました。ウイルスが血管の壁をボロボロにするからです。
最も恐ろしいのがヘリオトロープ・チアノーゼです。肺胞が水浸しになると血液中に酸素を取り込めなくなり、血液がどす黒い色に変わります。頬骨のあたりに、同名の銘木からその名を取られたマホガニー色(深い赤褐色)の斑点が現れ、それが顔全体や唇、手足の指先に広がり、青黒色や黒色へと変色していくのです。
美しい銘木の名がついたこの死の色が始まると、患者は数時間で血の混じったピンク色の泡を口から吹き出して死んでいきました。ベッドの上にいながら「自分の体液で溺死する」というとてつもない苦しみを味わったのです。
