アラスカの永久凍土と日本の悲劇

 1918年の流行当時は電子顕微鏡もなく、実物のウイルスは保存されていませんでした。ところが1951年、病理学者ヨハン・ハルティンが、スペイン風邪が大流行したアラスカの村の墓地を掘り返し、永久凍土で氷漬けになった遺体の肺から奇跡的にウイルスの遺伝子断片を発見しました。彼の執念などにより、そのウイルスが鳥インフルエンザの変異であることや、免疫暴走のスイッチが解明されたのは1997年のことです。

 日本の状況も悲惨でした。当時の人口約5500万人のうち2300万人が感染し、およそ45万人が亡くなりました。当時のポスターには『マスクをかけぬ命知らず!』と書かれていたほどです。原敬首相が倒れ、強靱な肉体を持つ日本の大横綱の栃木山でさえ高熱に倒れ危篤状態に陥るなど、体を鍛えていた人でもサイトカインストームの前には無力でした。

写真はイメージ ©︎AFLO

 その後、スペイン風邪は集団免疫の獲得とウイルスの弱毒化により急速に収束しました。しかし、現在私たちが冬にワクチンを打つA型インフルエンザの遺伝子を辿ると、その祖先の一部はこのウイルスに行き着きます。悪魔の子孫は今も隣に潜んでいるのです。もし次のパンデミックの原因がサイトカインストームを起こすウイルスだったら、私たちは教訓を生かし、情報を隠さず手を取り合うことができるでしょうか。

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