本来の『未知との遭遇』とキリスト教

ダニエルの恋人ジェーン(イヴ・ヒューソン=中央右)が元修道女なのは偶然ではない。© Universal Studios. All Rights Reserved.

 ワーデックスのノアはジェーンを精神支配しようとして新約聖書からマタイによる福音書を引用する。

「父よ、願わくば、この杯をわたしから過ぎ去らせてください」

 自分が処刑されると知ったキリストは神に助命を嘆願する。しかし、それが神からの使命だと悟り、受け入れる。

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「わたしの願いではなく、御心のままに」

 ノアの攻撃から精神を守るためジェーンは掌を十字架で傷つける。それは聖痕を連想させる。キリストの夢を見た修道女たちがキリストが十字架に釘打たれた箇所から出血する現象だ。

 ジェーンは異星人の存在は旧約聖書の創世記に反すると悩む。神が人間に海と空と地に住むすべてを治めさせたと書いてあるからだ。しかし、修道院長は言う。

「それは地球だけの話よ」

 マーガレットは赤い小鳥が部屋にやって来たことから、特殊な能力が目覚める(赤い小鳥はカージナル、カトリックの枢機卿を意味する)。マーガレットは習ったこともないロシア語や韓国語を話し始める。

 それは新約聖書の使徒言行録第二章に書かれたとおりだ。キリストの復活から50日目に集まった使徒たちが精霊に満たされ、さまざまな外国語で話し始めた。ここから使徒がキリストの教えをユダヤを超えて全世界に広げていく。

 そんなにキリスト教的な映画なの? と驚く人もいるだろうが、『未知との遭遇』も最初はそうなるはずだった。

 スピルバーグに依頼されたポール・シュレイダーが書いた脚本は、UFOを否定する政府職員ポールが実際に目撃してUFOを追い求めるようになる、という物語で、最初はキリストを否定していたがキリストを霊視して「眼から鱗が落ちて」信者になった聖パウロをモデルにしていた。カルヴァン派教会の息子であるシュレイダーはこの脚本を『キングダム・カム』と題した。「御国を来たらせたまえ」というキリスト教の祈りの引用だ。

 この脚本をスピルバーグは酷評して却下した。その理由は彼がユダヤ教徒だからなどといわれるが、『ディスクロジャー・デイ』は露骨なほどキリスト教的だ。

 聖書の精霊降臨の日はユダヤ教の収穫祭ペンテコステ(五旬祭)でもあったので、異言(神の言葉)を語る宗派をペンテコステ派という。ペンテコステ派の異言はエイリアンの言葉と同じく人間には理解不能なので通訳が必要だ。

 なお、聖書に登場する預言者、神の言葉を預かる者の名前はダニエルという。

 ちなみにキリスト第一の使徒ペテロはその日、世界に向けてこう言った。

「自らを救い出しましょう、この邪悪な時代から」

まちやま・ともひろ 1962年、東京都生まれ。映画評論家、コラムニスト。近刊に『裸の王様トランプのアメリカ破壊日記』(文藝春秋)、小誌連載のみうらじゅん氏との対談をまとめた『みうら君と町山クン』(集英社文庫)がある。

© Universal Studios. All Rights Reserved.

INTRODUCTION
地球外生命体との邂逅が人類にもたらすものは何か……『未知との遭遇』(77年)で描いたこのテーマに、スティーヴン・スピルバーグが再び挑む。「地球外生命体の存在を隠そうとするのは、人類の大きな損失なのではないか?」と考えていたというスピルバーグ。その思いが昇華された、スペクタクルたっぷりのSFアクション映画だ。
STORY
第三次世界大戦の危機にある2026年。アメリカ政府の機密を守るワーデックスに勤めるサイバーセキュリティのエキスパート、ダニエル(ジョシュ・オコナー)は、地球外生命体との遭遇映像などの機密を盗み、恋人のジェーン(イヴ・ヒューソン)とともに逃亡。一方、気象キャスターのマーガレット(エミリー・ブラント)は、家に赤い小鳥が飛んできたことをきっかけに、超能力に目覚め、生放送中に謎の言語をしゃべりだす。それを知ったノア(コリン・ファース)を中心とするワーデックスの面々は、マーガレットのことも追い詰めていく……。
STAFF & CAST
監督:スティーヴン・スピルバーグ/出演:エミリー・ブラント、ジョシュ・オコナー、コリン・ファース、イヴ・ヒューソン、コールマン・ドミンゴ/2026年/アメリカ/147分/配給:東宝東和/© Universal Studios. All Rights Reserved./2026年10月1日より全国公開。

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